それいけ腿(モモ)太郎ッッ!!!~超絶タイキック伝説~
古嶺こいし
第1話 腿太郎、爆誕
むかーし、むかし。
といってもこの世界ではなくどっかのパラレルワールドなどの昔、
筋肉もりもりのおじーさんと、運動大好きおばーさんが仲良く暮らしておりました。
家は山奥の、体を鍛えるにはとてもいい、たまに山伏が修行に来るところで、そこで修行をみてやって生計を経てて暮らしておりました。
ある日、おじーさんは山に芝刈りしつつ猟に出かけ、おばーさんが川で立ち泳ぎの鍛練をしつつ洗濯していると、なにやら川上から変な波がやって来ました。
なんだろうと、川上に目を向けると、なんと重しにちょうど良さそうな大きな桃が流れて来たではありませんか。
「あんれまぁ、これは見事な桃だねぇ」
大層驚いたおばーさんが桃を捕まえて持ち上げると、ずっしりと重く、中味が詰まっているようでした。
「これは良い重しになるねぇ。
しかも糖は筋肉の栄養になるし、ビタミンEは老化防止になるし、ビタミンCは疲労回復、カリウムは浮腫み改善。何よりナイアシンはお米の炭水化物をエネルギーに変換するし、食物繊維で内臓もきれいになる。なんと良い果実なんだ。
どれ、よっこいしょ」
持っていた布で桃を覆い、腰に巻くとなんとも良い重さ。
「ふふふふ。これでじーさんよりも足を鍛えられる」
そう言うやおばーさんは泳ぎだし、往復二キロ泳いだところで満足して家にもって帰りました。
山からちょうど熊を背負ってきたじーさんを見付けて声を掛けます。見事なシックスパックがぴくぴくしているところを見ると、どうやら殴り合いで仕留めたようです。
「おおーい、じーさんやー!」
「ばーさんや、遅かったのぉ!」
「今日は熊鍋かい?」
「そうじゃ!しかも大物だから干し肉にもできるぞ!!ところで、ばーさん」
おじーさんがおばーさんの持っているものを指差します。
「何を捕まえてきたんじゃ。猪か?」
桃を布で覆っているためおじーさんは猪と勘違いしてしまいました。
「ぶぶー!もっと美味しいものじゃ。わしは先に入っておるから、じーさんは下処理してからおいで」
「ほっほっほっー、なんじゃろな。楽しみじゃなー」
家の裏に回ったじいさんを見届け、おばーさんは洗濯物をささっと干すと、じーさんが下処理終わったのを見るや家に先回りし、桃の前に胡座をかいておじーさんを待ちました。
「おかえり」
「ただいま。さあ教えてくれ、何を捕まえてきたんじゃ」
おばーさんは桃の前に来ると、焦らすように少しずつ布をずらし、『ジャジャーン』と最後は盛大に取り払いました。
その桃のあまりの大きさに驚くおじーさん。
「まぁ、なんと立派な桃じゃ。これは良い重しになるぞ」
と、おばーさんと似た感想。
似た者夫婦でありました。
「さっき川でしっかり冷やしてきたから、きっと美味しくなっているはずだ。どれ、切ってみよう」
おばーさんが袖を捲り、手刀の構えを取ります。
「どりゃああああー!!!!」
奥義、
綺麗な太刀筋が桃を捉え、頂点から真っ二つ。
に、なるはずでした。
「なんだと!?」
「なんじゃと!!?」
おじーさんと、おばーさんの声がハモりました。
なんとおばーさんの大木でさえバターの様に撫で切る手刀が途中で止められていたのです。
風圧と衝撃波によって桃は裂けて地面に転がり、おばーさんの手刀を止めた何かが露になりました。
なんと桃のなかに男の子が居たのです。
その子は片膝立ちをし、おばーさんの手刀を真剣白羽取りをしておりました。
その見事な白羽取りに見惚れたおばーさんが。
「お主、やるな」
と声を掛けると。
赤子は。
「ばぶう」
と元気に返事をしました。
堂々とした姿を気に入ったおじーさんとおばーさんは、赤子を弟子にすると決意し、腕力で絞った桃のスムージーを飲みながら子供の名前を考えました。
唐突におじーさんが閃きました。
「この子はもう既に立ち歩いている。なんなら走る」
「そうねぇ」
そして桃スムージーを見ます。
「この子は桃から生まれた」
「そうねぇ」
最後におばーさんを見ます。
「よって、桃と同じ音を取って、腿太郎はどうじゃ?」
完全なダジャレでありましたが、おばーさんは少し考え。
「ナイスアイデア」
全面的に同意しました。
「お主の名前はこれから腿太郎じゃ。逞しく育て」
「ばぶう」
意味がわかっているのかいないのか。
腿太郎は近くの大鍋を持ち上げて返事を返しました。
この日から、腿太郎の伝説は始まったのでした。
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