第24話 ララと図書館 その4

「今日は大当たりだね」

「りゃう」


 ケロも嬉しいのか、羽を静かにパタパタさせていた。


 この本も先ほど見つけた秘伝書と同じような隠ぺいの魔法がかけられている。

 表向きの内容もやはり大切な、そして基礎的過ぎる内容だった。

 ララは先ほどと同じように魔法を解除する。


「作者はともかく、魔法をかけた人は同じかも」

 かけられた魔法の構造がほぼ同じだ。

 それゆえ、前回は解除に十分かかったが、今度は一分で完了した。


「でも、筆跡は違うし……。それに書かれた年代もこっちの方がずっと古そう」


 恐らく二冊をまとめて読んだものがいるのだろう。

 そして隠ぺいの魔法をかけたに違いない。


「こっちの本は、魔王城にあったのと年代が近そう」


 こちらの書物は神代文字で書かれていた。

 先ほどの書物は神代より後の文字だった。


「内容は……」


 錬金薬の効果を高める方法が書かれていた。

 それもララの知らない知識だった。


「これは……凄いかもしれない」

「りゃあ?」

「もしかしたら、とうさまの傷を治せる薬を作れるかも……」

 ララは興奮気味に言う。


 錬金術関連の書物が集められている書庫には、ほかに人はいない。

 とはいえ、図書館の中なのは間違いないので、ララもケロも小声だ。


「濃縮させる効果のある魔法陣を使うのが基本なのかな」


 単に濃縮しても普通は薬の効果は向上しない。

 それを向上するようにするための工夫が色々書かれている。


「材料の配合比率も重要なんだね……。あと錬金壺自体も工夫した方がいいのかな」

 真剣に読み終えた後、ララはそのまま本棚に戻す。


「この知識も広く知られた方がいいものだと思うからね」


 それから再び読書に戻ったララのもとに、司書がやってくる。


「ララさん。もう閉館時間ですよ」

「あ、すみません」

「いえいえ。今日ははかどりましたか?」

「おかげさまで! ありがとうございます」

「それは良かったです」


 ララは司書にお礼を言ってから、図書館から外に出る。


「今日も夕焼けがきれいだねー」

「りゃあー」


 そしてララはきょろきょろ周囲を見わたした。

 ピエールはどうやらいないようだった。


 目当ての本を素早く見つけて帰ったのかもしれない。

 ララはそう思った。


「じゃあ、帰ろうか」

「りゃっりゃー」


 今朝、五往復したおかげもあって、ララは迷わずエラの工房まで帰った。

 ララの後ろをこっそりつけていたピエールは満足そうにうなずいた。


「ただいまー」

「りゃありゃあー」


 工房に帰ると、奥からエラが出てくる。


「おお、お帰りなのじゃ」

 エラは額に汗していた。

 錬金薬製造に集中していたのかもしれない。


「師匠。忙しそうだね」

「うむ。キュアポーションの依頼がたくさん入ったのじゃ」

「そうなんだ、何か手伝うことある?」

「今日の作業はもう終わりじゃ。材料が尽きた故な」


 手持ちの材料を全て錬金薬に変えても足りないぐらい沢山の注文が入ったらしい。

 風邪が流行する兆しがあるという。


「まだ夏なのに、珍しいね」

「うむ。だからこそ、キュアポーションの材料が不足しておってな」

 錬金術師たちは風邪の流行しがちな冬に合わせてキュアポーションの材料を集めるのだ。

 夏に風が流行ると、途端に材料不足になる。


「私が材料を集めて来てもいいよ? 雑用は弟子の仕事だし……」

「気にするでない。すでに冒険者に依頼を出しておるのじゃ」

「冒険者ってイルファ?」


 エラはゆるゆると首を振った。


「最初はイルファに頼もうと思ったのじゃが、イルファも風邪気味らしいからのう」

「それは大変。お見舞いに行こうかな……」

「ララまで風邪をひく羽目になるからやめておくのじゃ」


 キュアポーションはいつも不足してる。

 重病人にいきわたらせるので精一杯。

 風邪気味程度のために使うキュアポーションはない。


「私にも何かできることはある?」

「……今は大丈夫じゃ。だが……。いざというときは材料収集を頼むかもしれぬ」

「任せてよ」

「冒険者に払う金も不足気味ゆえな……」


 風邪の流行のひどさ次第ではさらに錬金薬の材料が不足する。

 しかも、エラは貧富の区別なく重病人を中心に薬を販売する。

 薬代を満足に払えない人には赤字で格安で販売することも珍しくない。

 必然的に、貧しい人たちからの依頼が集中してしまう。

 だから、エラは基本貧しい。


「いつでも言って。というか明日材料の収集に向かうつもりだからついでに採ってくるよ」

「む? 図書館はよいのかや?」

「えっとね……」


 ララは今日の成果を報告する。

 大量生産の技法と、濃縮して薬の効果を飛躍的にあげる技法だ。


「ほほう。それが本当ならば、有用な技術だな。実践は難しそうじゃが」

 話しを聞いて、エラは実践できるのはエラぐらいなのではと思った。


「そうでしょ。理論的には正しい気がするけど、実験で確かめてみたくて」

「そうじゃな。実際に確かめるまでは何とも言えぬ。それが錬金術じゃ」

「色々と実験に必要な材料があるから採ってこようと思ってるんだよ」

「わらわに余裕があれば、融通させてあげられるのじゃがな」


 とてもじゃないが、いまのエラには材料の余裕はない。


「ララ、材料の採集場所はわかるのかや?」

「うん! それは本に書いてあったからね」


 ララは二日間で数千冊の本を読破している、

 その中には薬草の採取場所などが書かれている本も当然あった。


「ということで、明日は早起きして材料収集に行ってくるね!」

「気をつけるのじゃぞ」


 そして、ララはいつもよりも早く寝たのだった。

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