第25話 ララと材料採集

「はっ! よく寝た!」

 ララは夜明けのさらに一時間前に目を覚ました。

 寝つきも寝起きもいいのがララの特徴なのだ。


「この時間は夏でも少し肌寒いね! ね、ケロちゃん」

「……りゃぁぁ」


 ケロがまだ眠いと言いたげに一層体を丸くする。

 ララはそんなケロを抱きかかえて肩に乗せると、顔を洗って朝ご飯を作る。

 いつものようにエラの分も作っておく。


「ケロちゃん。朝ご飯だよー」

「……りゃ」


 ケロはいいから寝かせて欲しいと言った様子である。

 食べる様子が無いようなので、ララはケロの朝ご飯を魔法の鞄に入れた。

 そしてララは自分だけ朝ご飯を食べる。


「さてさて! 素材を集めにいこう」

「……りゃ」

「ケロちゃんは眠たいのかな。赤ちゃん竜だから仕方ないかも。部屋で待ってる?」

「りゃぅ」


 肩に乗ったケロは寝ぼけながらもヒシっとララの頭にしがみつく。

 置いて行かれたくはないらしい。


「わかった、一緒に行こうね」


 そして、ララはケロを肩に乗せたまま家を出る。


 エラの工房は、ガレーナ南東街区の中でも東よりにある。

 だからララは最も近い東門へとまっすぐに向かう。


 しばらく歩いたララは門へとたどり着いた。


「ふう。思ったより時間かかっちゃったね。でも迷わずこれた。ね、ケロちゃん」

「……りゃう」

 ケロはララが歩いている間、ずっとウトウトしていた。


 ララが門に近づくと、門番が言う。


「随分と早いな。街の外に急用なのか?」

「急用ではないんだけど……」


 ララは、錬金術師ギルドのカードを見せる。

 そして自分は錬金術師の弟子で、今から材料集めにいくのだと伝えた。


「そうか。どこも弟子ってのは大変なんだなぁ」

「全然大変じゃないです」

「だが、一人で大丈夫か?」

 太陽は昇り始めているが、まだ人通りは皆無に近い。

 少女一人で街の外に行くなど危険行為だと門番は思ったのだ。


「私は魔法を使えるから大丈夫だよ」

「そうか。魔導師なのか。それなら大丈夫かな」

「うん」

「でも、気を付けるのだぞ」

「はい!」

「ああ、そうだ。街に戻るときは、なるべくこの西門から入ってくれ」


 門番は優しく説明してくれる。

 同じ人が同じ日に同じ門から出入りする方が、書類上色々楽なのだという。

 出た門とは異なる門から入るとなると、色々手続きが面倒らしい。


「わかりました!」

「おう、気をつけろよ」

「はい! 気を付けます」


 そしてララは西門から外に出た。

 家を出たとき東門を目指していたことなど、すっかり忘れていたのだった。


 西門からでたララは周囲を見回す。


 門からは街道がまっすぐに伸びていた。

 ガローネの周辺は見晴らしの良い平原だ。


 だが徒歩で三十分も進むと、街道は森の中へと入っていく。

 さらに遠くには高い山も見える。山頂付近は雲に覆われ雪も溶けていない。

 とはいえ、魔王城の裏山ほどは高くなかった。


「やっぱり山かなぁ。高度が上じゃないと生えない薬草も多いからね」


 そんなことをケロに向かって呟いてから、ララは山の方向へと走った。

 いつも裏山を駆けていたときのように、ララは体を魔法で強化している。

 ものすごく速い。


「走るのは久しぶりな気がするー」

「リャアアアアアアッ!」


 魔法王国からガローネまでの道中では父母から走るなと言われていた。

 だからララが走るのは久しぶりだった。


「やっぱり思い切り走ると気持ちがいいね」

「リャッリャアウリャアアアアアリャウ」


 寝ぼけていたケロも、ララのあまりの速さに目を覚ました。

 ケロは驚いて鳴きながら、羽をバサバサさせる。

 思い切り走ったララは、馬どころか飛竜よりも速い。


 そして東門に行こうとして西門に行ってしまうララである。

 当然のように見当違いの方向へと走った。


 ララは当初目指していた山とは全然違う場所へと向かっていく。

 父母が走るなと厳命した理由がよくわかるというものだ。


 そんなララが急に足を止める。


「あっ、薬草があった! これはキアリ草だよ」

 いつの間にか、どこかの森の奥深くにいたララは薬草を発見した。

 すぐに採集を開始する。


「これはキュアポーションの材料になるんだー」

「りゃあ」

「あ、ケロちゃん、お腹すいたの?」

「りゃっりゃ」


 ケロは寝ていたので朝ご飯を食べていないのだ。

 ララは手ごろな岩を見つけて腰を下ろす。

 そして鞄からご飯を取り出してケロに食べさせた。


「たくさん食べるんだよー」

 ケロは一生懸命朝、むしゃむしゃとご飯を食べ始める。

 朝ご飯のメニューはララと同じでパンとゆで卵である。


 ケロが一生懸命ご飯を食べている姿をララはニコニコしながら見つめていた。

「りゃむ?」

 ケロがパンをララの方に差し出した。

 ララはお腹が空いているから、じっと見ているのかと思ったのだろう。


「全部食べていいよ。私はもうお腹いっぱい食べたからね」

 そう言ってララはケロの頭を優しく撫でる。


 そしてララは落ち着いて周囲を見回した。

「あれ、ここはどこだろう?」

 目指していた山は影も形も見えない。

 見知った風景が何一つなかった。


「りゃむぅ?」

 ご飯を食べながら、少しだけ不安そうにケロが首をかしげる。

 そんなケロの頭を撫でる。


「まあいっか! ケロちゃん、大丈夫だよ」

「りゃむむ~」


 ララが全く不安そうではないので、ケロも安心したようだった。

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