第23話 ララと図書館 その3

 ピエールが現れたのは、当然のことながら偶然ではない。

 昨日、ララがぐるぐる迷子になっていたので、見かねたのだ。


「それにしてもララ。早いな。まだ図書館開いてないんじゃないか?」

「昨日も同じぐらいに工房を出たけど、ついたときには開いていたよ?」

「それは道を間違ったからだな」

「もしかしたら、……そうかもしれない」


 そんなことを言っている間に図書館に到着する。

 まだ開館時間まで時間がありそうだ。


「あと二時間ってところだな」

「そんなに?」

「折角だし、工房から図書館までの道を覚えたらどうだ?」

「もう覚えていると思うよ?」


 ララはそういうが絶対覚えていない。


「まあ、いいからいいから」


 ピエールに付き添われて、ララは工房と図書館の間の道を五往復した。

 その間にケロも起きたので、歩きながら朝ご飯を食べさせる。

 そうしている間に図書館の開館時間がやって来た。


「ララ、もう道は覚えたかい?」

「うん! ありがとう!」

「それならよかった。じゃあ、勉強頑張れよ!」


 そういって、ピエールは図書館の受付に向かい冒険者関係のエリアへと向かう。

 ララはケロを肩に乗せたまま、閲覧申請をする。

 受付してくれたのは昨日と同じ司書だった。


「あら、今日は可愛いお連れさんがいるんですね」

「はい。問題ないですか?」

「そうですね。部屋は書物を汚したり、暴れたり騒がしくしないのであれば……」

「それは大丈夫です。ケロちゃん、静かにできるよね?」

 ケロは真面目な顔でうんうんと頷いた。


「それなら大丈夫です」

 そして閲覧許可が出たので、ララは錬金術エリアへと向かう。


「さてさて、今日も本を読むぞー」

「りゃう」


 ララはものすごい勢いで読破していく。

 昨日よりもさらに読書スピードが上がっていた。

 その上、昨日とは違い、開館直後に入館できているので時間もある。


「おや?」

「……りゅ?」

「魔法がかかっている本があったよ、ケロちゃん」


 それは今朝読み始めた本から順に数えて大体千冊目ぐらいの本だった。


「……ふむ」

 それは一見普通の本に見えた。

 書かれている内容は基礎中の基礎の内容だ。

 初心者が気を付けるべきことなどが丁寧に書かれている。


 薬草を扱う前には手を綺麗に洗いましょう。

 使用する前に、錬金壺の中に前に作った薬のあまりなどが入っていないか確認しましょう。


 師匠が、新弟子に一番最初に教えるようなことばかりだ。

 つまり、まともな錬金術師ならパラパラとめくって、すぐに本棚に戻すだろう。


 だが、廃棄されることもない。

 書かれている内容は正しい。その上、とても大事なことなのは間違いない。


 この錬金術系の書庫に入る人間ならば、内容の大切さはわかるが、絶対に必要ない本。

 そういう本だ。


「魔法がかかっていることも隠している。それもすごくうまく隠している」

 ボソボソ独り言を言うララを、ケロは不思議そうな顔で見つめている。


「……気付かないところだった」

 天才魔導師のララが見落としかけたほどだ。

 魔法の素養のない錬金術師はもちろん、熟練の魔導師でも気づかないだろう。


 ララはさっそく魔法を解除しはじめる。


「本は絶対傷つけたらだめだから気を付けないとね」

「りゅ?」


 魔王城の禁断書庫にあった秘儀書にかかっていた魔法を解いて解読したララである。

 本にかけられた魔法を解くのは得意分野だ。


 それでも、非常に難解な魔法がかかっていたので、解除には十分ほどかかった。


「ふう。やっと読めるよ」

 ララは集中して読み込んでいく。

 本にはララの知らない知識が記述されていた。


「……勉強になる」

 主に大量生産の技術だ。

 錬金術薬の品質をさほど低下させずに、製造スピードを加速させる方法が載っていた。

 加えて、錬金薬を複製する方法も書かれている。


「ほうほう。肝は魔法陣なのかな」

 魔法陣を駆使して、複数の錬金壺を同時に動かすのだ。


「錬金壺は複製用に製造しないとだめなんだね」

「りゃ?」

「加速も複製も、材料を少し変える必要があるみたい」


 普通に作ったほうが、一瓶当たりの材料は少なくて良い。

 だが、早く作れた方がいい場合も多いだろう。


 ララの錬金薬は品質が高いとはいえ、街中の病人怪我人に配れるほどではない。


「伝染病が流行ったり、災害が起こったとき、凄い役立ちそう!」


 八年前、魔王の国の王都が壊滅した。

 その際、この技術があれば、大勢の人が救えたはずだ。


 そして、ララは本を読み終えた。

 それをララは本棚へと戻す。


「りゅ?」

「魔法をかけなおさなくてもいいのかってこと?」

「りゃあ」

「……うーん。技術は広く知られた方がいいし」


 大量殺戮を可能にする危険な大魔法の秘伝書ではないのだ。

 錬金薬を短時間に沢山作れるようになる技術ならさほど危険はない。

 だが、広めたくない何者かに燃やされる可能性もある。


「念のために元に戻しておこうか」

「りゃ」

 ララはささっと魔法をかけて、元に戻した。


「さて、読書再開するよー」

「きゅっきゅ」

「目的はとうさまの怪我を治せる錬金薬の作り方だからね!」


 読書を再開したララは、すぐにもう一冊の魔法がかかった本を見つけたのだった。

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