第22話 ララと図書館 その2

 一心不乱に読書していたララは、後ろから声をかけられた。


「すみません。もう閉館時間です」

「……へいかんじかん?」

 ちょうどその時、ララは五百冊目の本を読み終えたところだった。


 きょとんとしている、ララに図書館司書は笑顔で答える。


「えっと図書館は八時から十七時までが利用時間なので……」

「知らなかった」

「説明が不足してましたね! すみません」


 そういって、司書はちょこんと頭を下げる。

 メガネをかけた笑顔の可愛い黒髪の少女だ。


 司書は開館時間と閉館時間について知らなかったと思っていた。

 だが、ララが知らなかったのは開館時間と閉館時間が存在するということだ。


「……あ、ありがとうございます。勉強になりました!」

「いえいえ、また明日も来られるんですか?」

「そのつもりです!」

「お待ちしていますね」

「はい!」


 元気に返事をしたララは司書に改めてお礼を言ってから図書館を出た。


「空が真っ赤だ」

 夕日が西の空を赤く染めていた。


「お腹が空いたかも……」

 ララは昼前から夕方まで、ずっと図書館に籠っていた。

 朝ご飯以来、何も食べていない。


 エラの工房に帰ろうと走りかけたララに、

「お、ララじゃないか!」

「ピエールさん、こんなところでどうしたの?」

「いやなに、図書館にちょっと用があってな」

「へー」

「ほら、俺は冒険者だろう? 魔物の生息地域とか調べたいこともあるんだ」

「そっかー」

「ララは、こんなところで何してたんだ?」


 当然ピエールは知っているが、知らないていを装って聞く。

 素直なララはピエールに図書館で錬金術の調べものをしていたと告げる。


「図書館で調べものができるということは、無事錬金術師ギルドに入れたんだな」

「そうなんだ! おかげさまでね」


 ララは嬉しそうにエラの工房に下宿させてもらってることも報告する。

 それもピエールは当然知っている。

 それでも初めて聞いたていで、驚いたりしつつニコニコと聞いていた。


 そんなことを話しながら二人で歩いていく。

 ふと気づくと、エラの工房の前までやってきていた。

 ピエールはララが迷子にならないよう、さりげなく誘導しながら歩いていたのだ。

 そして、工房から図書館までは、迷わなければそう遠くない。


「あ、ここがエラさんの工房なんだ」

「そうかい。実は俺も近くに部屋を借りたんだ」

「すごい、偶然だね! 宿屋暮らしはやめたの?」

「ああ、いつまでも宿屋暮らしだと高くつくからな」


 偶然を装ってピエールはララに自分の家を教えた。

 あくまでもさりげなくを心掛けて自然に教える。


「何かあったらいつでも来てくれ」

「うん、ありがとう!」


 ピエールを見送った後、ララはエラの工房へと入る。


「ただいまー、うわっぷ」

「りゃりゃりゃうりゃいりゃい!」

 ララの顔面にケロが飛びついた。

 そして髪の毛をハムハムし始める。


 工房の奥からエラも顔を出した。


「おお、ララよ。お帰りなのじゃ」

「師匠、ただいまです」

「朝ご飯、たすかったのじゃ。ありがとう」

「いえいえ、ケロはいい子だった?」

「うむ。ケロは寂しがって鳴いて、大変だったのじゃぞ」

「それはごめんなさい。ケロちゃん、師匠に迷惑かけたらだめだよ?」

「リャッリャ!」

 ケロは羽をバタバタする。

 ケロを置いていったことを怒っているのだ。


「でもね、ケロちゃん。図書館にケロちゃんを入れるわけには……」

「む? 別にかまわぬはずじゃが……」

「そうなの?」

「うむ。魔導師の使い魔と同じ扱いじゃろう」

「そうなんだ。じゃあ、明日からはケロちゃんも一緒に行こうね」

「りゃぁ」


 それを聞いてケロはやっと大人しくなる。

 そしてケロはララの袖を引っ張った。


「どうしたのケロちゃん」

「りゃ」


 ケロは食卓のテーブルまでララを引っ張った。

 テーブルの上には、ララがケロのために用意しておいた食事があった。


「あれ? ケロちゃんご飯食べなかったの?」

「りゃー」

「わらわが食べるように言っても食べなかったのじゃ。そのご飯は嫌いなのじゃろう」

「そうなはずはないと思うけど……」

「がふがふがふがふ」


 ララとエラが話している間にケロがご飯を勢いよく食べ始めた。

 たまにララのことをちらっと見て、ちゃんと自分を見ているか確認する。


「……ララに食べているところを見て欲しいのかも知れぬのじゃ」

「そうなの?」

「りゃむりゃむ」


 ララはご飯を食べるケロの頭をこしょこしょ撫でた。


「そういえば、イルファは?」

「昼頃起きて帰っていったのじゃ」


 どうやら、イルファは自宅に帰ったらしい。

 それ以来、工房には来ていないとのことだった。

 イルファはよく工房に来て泊まるのだが、毎日泊まるわけではないようだ。


「ララよ。図書館に行っておったのじゃろう? どうであった?」

「ここら辺の薬草の植生とかは知れたけど……」

「……技術的な新発見はなかったのじゃな?」

「うん」

「まあ、気長にやるがよいのじゃ」

「ありがとう!」


 そして次の日。またララは夜明け前に目を覚ます。

 昨日と同様、朝ご飯を用意して、図書館へと出発する。

 今日はケロも一緒だ。


「ケロちゃん、朝ご飯は鞄に入れといたけど……図書館は飲食禁止なんだよ?」

「……りゃぅ」

 ケロは相変わらず眠りこけていた。


 ララが、走り出そうとすると、

「おや、ララ、ずいぶんと早いんだな!」

「あ、ピエールさん。おはようございます!」

「おはよう。今日も図書館かい?」

「はい!」

「俺もなんだ。よかったら一緒に行こう」

「はい!」


 どうやら今日は迷わず図書館に向かえそうだった。

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