第20話 ララとキュアポーション

 神代の錬金術の技について語るララは自信なさげだ。


「じゃないかなーって思うんだけど……」


 ララの説明を聞いて、エラは考え込む。

 エラにとっては、考えたこともない理論だったからだ。


「……理論上は可能に思えるが」

「よかったぁ。間違えてなかったんだね」

「……だが、不可能じゃ」

「どうして?」

「触媒が足りぬのじゃ。触媒は薬草よりさらに貴重ゆえな」

「触媒なんていらないよ」

「いや、いるじゃろ」


 ララは納得しないエラに実際に見てもらいたくなった。


「ちょっと枯れた部分をもらってもいい?」

「廃棄する部分じゃから構わぬぞ」

「よかった」

「ほんの少しならば、枯れてない部分も使ってよいのじゃ」


 エラもララの語る理論に興味が出て来ていた。

 だからそんなことを言う。


「うん。ありがとう。でも枯れた部分だけで充分だよ」


 ララは鞄から自分の錬金壺を取り出した。


「なんじゃ、それは」

「錬金壺だよ。自分で作ったから不格好で恥ずかしいんだけど……」


 ララは恥ずかしそうにしているが、

「自作じゃと……?」

 エラは見たことのないタイプの錬金壺に驚愕していた。


 一般的な錬金壺よりも外見は地味だ。ありがちな装飾などほとんどない。

 だが、うっすらと刻まれた魔法陣が独創的だった。

 少なくともエラの見たことのない魔法陣だ。


 エラが壺に驚愕していることにも気づかず、ララは作業を始める。


 まず魔法の鞄から、どこにでもある材料と水を取り出した。

 店で安価で大量に買える類のものだ。

 そして、薬草の枯れた部分を少しだけ切り取って、壺へと放り込む。

 続いて水と安い材料を入れていく。

 それから空中に魔法陣を手早く刻んだ。


「はい! できましたー」


 あっという間にララお手製のキュアポーションが出来たのだった。

 ララのポーション製作過程を見ていたイルファとエラは驚く。


「ものすごく早いのね」

「早さは合格じゃな」

「りゃっりゃ!」

 ケロも大喜びだ。錬金壺の周りをふわふわ飛んで、ぐるぐる回る。


「問題は、本当にキュアポーションになっているかじゃ」

「できていると思うわ! だって手際よかったもの」

「手際よくみえただけかもしれぬのじゃ」

 そう言いながら、エラは錬金壺に顔を近づける。


「できていたとしても、キュアポーションは特に品質が重要なのじゃ」


 品質が低いポーションは、当然効果が薄い。

 怪我なら品質が多少悪くとも、少し傷がふさがったり打ち身の回復が早くなりはする。

 だが、低品質のキュアポーションだと軽い風邪にしか効果がなかったりする。

 そもそもキュアポーションになっていても、効果が皆無のことすらあるのだ。

 店売りの安いキュアポーションの半分ぐらいは効果が皆無だったりするほどだ。


「品質を確かめてみて」

「……む? 量が多いのじゃな」

「さっきの材料からなら、このぐらいの量はできるよ?」

「……ほ、ほう」


 驚きながらも、エラは錬金壺の中に入ったままのキュアポーションを確かめる。

 手は触れずに簡単に魔力を流して品質を確かめていく。


「これは……」

 それはエラが見たこともないほど高品質のキュアポーションだった。


「……なんという品質じゃ」

「ダメだったかな?」

「ダメではないのじゃ」

「よかったー」

「せっかく作ったのじゃ、瓶に詰め替えた方がいいじゃろう」

「そうだね、病気の人に配ったらいいし」

「いや、それはどうかと思うのじゃ」

「どうして?」

「病人の数に対して、ポーションの数が少なすぎるからじゃ」

「なるほど。取り合いになったら大変だもんね」

「そのとおりじゃ」


 エラはポーションを瓶に詰めながら、ララに尋ねる。


「ララとやら。お主どこで錬金術を学んだのじゃ?」

「えっと……」

 魔王城の禁断の書庫の本で勉強したと言えば、魔王の娘であることがばれてしまう。


「……自宅にあった本で読んだんだよ」

「えぇ……」


 エラはドン引きした。

 ララの錬金術の水準が独学で身に着けられるレベルではなかったからだ。


「……ふぅむ。ララはすでに錬金の技術を持っているようじゃな」

「ありがと! でも、まだまだだってわかっているよ」

「で、図書館じゃったな」

「そうだよ。図書館の錬金術の本を読みたいんだ」

「何のためじゃ?」

「実は……」


 ララは父が重い怪我で、動けないのを治したいのだと説明する。


「う……うぅ。そんな事情があったんだね」

 イルファが泣いていた。

 イルファは、どうやら涙もろいようだった。


「そんな泣かなくても……。とうさまは元気だから……動けないだけで」

「……のんきな顔して、苦労していたのじゃな」

 エラも涙を目に浮かべている。


「わかった! わらわが図書館で本を読めるように口利きしてやるのじゃ」

「ありがとう!」


 エラはララの面倒をみてくれる気になったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る