第19話 ララとエラ・シュリク その2

 エラにはララに付き合うつもりはなさそうだ。

 それをみかねたイルファが言う。


「エラさま。ララはその薬草を取り返すのを手伝ってくれたの。だから、お願い!」

「ふうむ」

「お願いします!」

「りゃう!」


 ララとケロも頭を下げる。

 ララはともかく、ケロの頭を下げる姿はとてもかわいい。

 そんなケロの姿にエラは心を動かされたようだった。


「ふぅむ。ならば雑用として下働きするのなら、面倒をみてやってもよい」

「ありがとうございます!」

「ララとやら。お礼はまだ早い。そなたが実際に下働きできるか確かめねばならぬ」

「任せて!」


 張り切るララにエラが説明する。


「錬金術師の仕事など、大半は誰でもできる雑用じゃ」

「うん。わかってるよ」

「そして、誰にもできるわけではない難しい雑用もある」

「それってどんな雑用?」

「素材の収集じゃ!」

 素材集めは錬金術師の重要な仕事の一つだ。


「ララとやら。この薬草を集めてくるがよい。場所は自分で調べよ」


 エラは薬草を右手に掲げてそう言った。

 薬草の名前も、生えている場所も教えない。

 それを調べること自体が試験なのだとララは理解する。


「エラさん。でもそれって、イルファが集めてきたやつだよね?」

「そうじゃ。よくわかったと褒めてやるのじゃ」

 そしてエラはイルファを見る。


「イルファ。ヒントを出すことは禁止じゃ。テストなのじゃからな」

「わかったわ!」


 イルファは真剣な表情で返事をする。

 だが、ララは首をかしげる。

 そんなララを見てエラは眉を顰める。


「なんじゃ。不服でもあるのかや? 雑用がいやならば立ち去るがよいのじゃ」

「不服じゃないよ。ただ……」

「ただ、なんじゃ。はっきり言うがよい」

「もうイルファの持ってきた薬草が充分あるんじゃないかなって」


 ララはもっと別の足りない薬草を集めた方が後々助かるだろうと思ったのだ。

 集めるのが面倒くさそうというような発想は、ララにはかけらもない。

 だが、エラは薬草集めが大変だから、そのようなことをララが言うのだと誤解した。


「薬草の変更は認めぬ。甘えるのではない」

「その薬草があれば、いろんな人が助かるの。いくらあってもいいのよ」

 イルファが優しくララに言う。


「でも、イルファが持ってきた量だけで、相当な数のポーションが作れるし……」

「ふん」


 エラは鼻で笑った。

 ララは、この薬草をヒールポーションの材料と誤解していると考えた。

 だが、この薬草は病を治すキュアポーション系列の材料。

 それもハイキュアポーションの生成に必須の材料なのだ。


「ララとやら。これはそなたが思っている薬草とは違うかもしれぬぞ?」

「え? キュアポーションの材料だとおもったけど違うかな」

「そ、そうかもしれぬな」

 ララがキュアポーションの材料だと知っていることにエラは驚いた。


「それだけあれば、キュアポーションは大量に作れると思う」

「そなたは、何を勘違いをしているのじゃ?」


 ララの常識はずれな発言に、エラは少し困惑した。

 若くしてヒールポーションを作り、キュアポーションの材料も知っている。

 なのに、なぜキュアポーションの材料が少なくていいなどと勘違いしているのか。


 ララは少し不安げに言う。

「かもしれないけど……。キュアポーションを作るにはほんの小さじいっぱい程度で……」


 エラはイルファの持ってきた薬草を見せながら、首を振った。


「この薬草はかなりの量を煮詰めて凝縮して精製しなければ、使い物にはならぬ」

「え?」

 ララは驚いていた。そんなことしなくてもいい方法はあるからだ。

 エラは、ララの反応をそんなに手間が必要なのかと驚いていると誤解した。


「そのうえ、これらは葉も根も枯れてしまっている。大部分を廃棄しなければならぬ」

「あたしがごろつきなんかに奪われたばっかりに……」

 薬草保管のいろはを知らないごろつきどもに奪われたせいで、劣化が激しかった。


「イルファのせいではないのじゃ」

 しょんぼりするイルファをエラは優しく慰める。


 そしてララに向かって言う。


「ということで、この薬草はまだまだ必要なのじゃ。集めてくるがよい」

「はい! わかりました! でも質問していいかな」

「……質問はなんじゃ?」

「どうして凝縮して精製する必要があるの?」

「……逆にどうして精製する必要がないと思うのじゃ?」

「えっと」


 ララは自分の知識を語る。

 それは神代の錬金術の奥義。現在では失われた技だった。

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