第3話 魔王の窮地
魔王の風魔法で吹っ飛ばされた後、すぐに起き上がって勇者が叫ぶ。
「死にぞこないが!」
「その死にぞこないに苦戦している間抜けがいるらしいな」
「だまれ! 息を合わせるぞ!」
勇者は魔大公へ呼びかけた。
魔大公は鼻血を拭いながら立ち上がる。
「最初からそうしろ」
魔王はあきれたように言った。
それからは魔大公と勇者は力を合わせて魔王に襲い掛かる。
魔王も全力で魔法をふるい、苦しめる。
だが、魔王は戦闘開始時点から瀕死である。
大魔猪との群れとの戦いによる消耗が激しかったのだ。
当然の結果として、徐々に押されていく。
「あれあれ~? 魔王ともあろうものが。随分とお疲れのようですねぇ」
勇者が嬉しそうに聖剣で連続切りを繰り出していく。
魔王の張った障壁が、聖剣で次々と砕かれていった。
「お前らも疲れて果てているように見えるがな。体の調子でも悪いのか?」
「お気遣いどうも、陛下」
そこに魔大公が魔法を繰り出す。
魔大公の行使する魔法の属性は、氷、水、炎、風、土。
多様な属性魔法を途切れなく連続で使用する。
次に使う魔法の予想を絞らせないようにし、対策を取りにくくしているのだ。
仮にも魔法王国貴族の最高位である魔大公にまで上りつめた傑物である。
魔法王国の貴族はコネや家柄だけでなれるものではない。
魔大公の魔法の腕は本物だった。
「ちぃ!」
最強の魔王と言えど、疲弊した状態で魔大公と勇者の二人を相手にするのは荷が重い。
魔王の身体に新しい傷が増えていく。魔王の服が赤く染まる。
それを見て、勇者が心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
「そろそろ、終わらせましょうか」
「お前らにそれができるのか? 俺は簡単にはやられはせんぞ」
魔王は不適ににやりと笑う。
まだまだ戦えると思わせるために。
実際には、もう限界だった。立っているのもやっとの状態。
魔王が未だに膝をつかないのは、根性のなせる技。
気力だけで立っている状態だった。
(俺もそろそろ潮時か。せめて一人は仕留めたかったが……)
それが魔王にとっての心残りだった。
勇者と魔大公。そのどちらにも致命傷を与えることが出来ていない。
魔力は消耗させた。傷も無数につけた。
だが、それだけだ。
通常ならば回復まで数週間かかる傷を負わせている。
だが、敵には聖教会がついている。
神の奇跡があれば、即座に全快してしまうに違いない。
(だが、逃げるための時間だけは稼げた。ララ。健やかに育つのだぞ)
心の中で愛する娘に語り掛けた。
「死ねやあああああぁぁっ!!」
魔大公、渾身の強力な火炎の魔法。これで仕留める気だ。
残る魔力の大半をつぎ込んでいる。
(これさえ凌げれば、勝ちの目も見えるかもしれぬが……。難しいな)
同時に、勇者の聖剣の鋭い斬撃。
(これも防げぬし、避けられもせぬな……)
魔王は死を覚悟する。
それでも残りの魔力を振り絞り魔王は障壁を張る。
その障壁を聖剣はやすやすと斬り裂いていく。
切り裂かれた障壁の隙間から、魔大公が放った魔法の火炎が一気になだれ込んだ。
「ぬおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ……」
全身が炎に包まれ、魔王はたまらず声を上げる。
「これで終わりだ!」
燃え上がる魔王の身体に、勇者の聖剣が深々と突き刺さった。
「ぐううう」
魔王は魔力を解放し、自分についた炎を吹き飛ばす。
そして自分を貫いている聖剣を両手で握る。
「なかなか、やるではないか。小僧どもが」
せめて、最期に一撃。
どうにかして食らわせたい。
魔王は命を削り、ひそかに大魔法を用意する。
だが……、
「いい加減に、さっさとくたばれ!」
勇者がとどめを刺すために聖剣で魔王の身体をえぐろうとした。
(大魔法は間に合わぬか……)
魔王があきらめかけた、まさにその時。
「とうさまをいじめるなー!」
「なにや――」
勇者の「なにやつ?」という
勇者は声のした方を振り返ろうとして、その途中で勢いよく吹っ飛ぶ。
聖剣は魔王に刺さったまま。
ものすごい速さでかけて来たララが勇者を殴り飛ばしたのだ。
その速さは、戦闘中だったとはいえ勇者も魔大公も、そして魔王すら気付かなかったほど。
「この、ガキが!」
顔を腫らした勇者が忌々し気に吐き捨てるように言う。
「どうせ、殺すつもりだったんですから。追いかける手間が省けたってものです」
魔大公はララをみて余裕の笑みを浮かべた。
「ララ! どうして戻って来た! 早く逃げろ!」
「いやだよ!」
魔王の命令をララは無視する。
「ここに来た以上、逃がすわけないでしょう?」
魔大公が不可視の魔法の槍十三本をララの周囲に展開する。
「死ね!」
十三本の魔法の槍、その全てがララを目掛けて高速で飛ぶ。
全ての槍が同時にララを貫く――。
「あぁっ!! ララ!」
――ガィイイイン
魔王の悲鳴と同時に何か固いものにあたったような変な音が響く。
だが、既にララはその場にいない。
ララに殺到した魔法の槍は、互いにぶつかりへし折れていた。
そして消えたララは、いつのまにか魔大公の後ろにいた。
「おまえもゆるさないよ!」
「な、なにを……」
魔大公は慌てて振り返り、そこで自分を睨みつけるララを見て怯む。
だが、魔大公は相手は、ただの幼女に過ぎないと思いなおした。
「調子に乗るな、ガキ――、ぶげあ」
怒っているララは魔大公の言葉など聞いていない。
そのまま顔面を殴りつける。
顔の骨が折れて鼻と口から大量の血を流しながら、魔大公は無様に転がった。
そこに勇者がララを目掛けて突進する。
聖剣は魔王を貫いたままなので、普通の剣で斬りかかった。
だが、勇者の眼前からララが消える。
「ぐはぁあ……」
勇者は顔面をララに殴られた。
殴られるまで、勇者はララの拳には気付けなかった。
それは完全なる死角からの攻撃だった。
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