神様日記

安奈 恵

第1話パッパの神様


 登場人物、団体名はすべて仮名です。


 工場のような波型のトタンの壁の建物だった。

どこにでもありそうなアルミのドアを開けた。N市美術館で一緒にガイドボランティアをしている山下さんと話しながら、中に入った。

階段がすぐにあったので、上がって行った。

 「山下さん、ボランティアの保険、払いました?」と私は聞いた。

「前の分は払ったけど・・・」と山下さんは答えた。

 踊り場に着き、又、ドアを開け、屋上に出た。

かなり古いビルなのだろうか。コンクリートに黒いしみが目立った。

屋上の上に更にビルが建っていた。そこに入ると、今度はエスカレーターがあった。

「私は払ったけど・・・」

と 話しながら、ずっと上がって行った。山下さんはいつの間にかいなくなった。

暗い闇の中を通って更に上に行った。急に明るくなった。エスカレーターの手摺の色は、金色に変わっていた。

私は長年愛用して来た黒のショートブーツを履いていた。大きいはずのそれが、何故か入らない。

仕方がないので、つま先立ちをした。

エスカレーターを降りた。ホテルのラウンジのようになっていた。絨毯はオレンジと黄色の大きな柄で、調度品は豪華でまばゆく、光り輝いていた。

右側にあったソファーに身を沈め、辺りを見渡した。

ガイドボランティア仲間の島田さん(彼女は癌でお亡くなりになってたことを最近知った。この文章を書いた時はお亡くなりになったことは知らなかった)とよく似た人がいた。彼女は飲み物を取っていた。カウンターの前に立って、横を向いた。

黄金色のドレスを着て、黄金色のスカーフを巻いて、これ又黄金色の大粒の真珠のネックレスをしていた。

横顔をクローズアップして見ると、やはり、島田さんだ。

しかし、神様は、

「違う、偉い女神様だ」と おっしゃった。

すると、何かスターウォーズに出て来る腹側動物の怪物、ジャバ・ザ・ハットのようなとても低い

バスの声で、

「恵さん、恵さん、私がパッパラパーとピッピリピーの神様ですよ。靴が入らないんですかあ」

と おっしゃったとたん、足がブーツに、すっと入った。

あまりにもの迫力と自信溢れる声に怖くなり、神様を呼んだ。

「神様、どこにいるの?!」

 私は慌てて探したが、見当たらない。いつもはすぐに来て下さるのに、来てくれなかった。 私は不安と畏敬の念で目が覚めた。


「パッパラパーとピッピリピーの神様に声をかけられるなんて、人間では恵さんだけですよ。

そんな高いところまで行けるなんて・・・」

 いつもは普通にテノールで抑揚をつけて聞こえるが、今日は合唱付きで聞こえた。

 絵里ちゃん(自称ガブリエル。しかし、私はガブリエルとは信じられない。姪の絵里ちゃんに声が似ているので、絵里ちゃんと呼んでいる)と神原誠の命様というベツレツの神様が言われた。

よく二人に適当なことを言われ、騙されているから、事実かどうかは分からない。

「それだけど、姿は見えなかった」と言った。

(テレパシーで言うので、実際に声を出して言うのとは違う。神様の声は聞こえるが、私の声は聞こえない。神様か絵里ちゃんが私が話すのと殆ど同時に私の代わりに言ってくれる)

「そんなもの人間なんかに、姿を見せるわけないでしょう。すごい大いなる神様なのだから」

と言われた。

 すると、夢に出てきたパッパラパーとピッピリピーの神様(長いので、これからはパッパの神様と書く)が、

「スターウォーズの怪物じゃなくて、クリント・イーストウッドに似ている」

と実際におっしゃった。

クリント・イーストウッドというと「マディソン郡の橋」の時の姿を思い浮かべると、

「イージーライダーの時のイーストウッド」

と言われた。

そうなんだと思い、又、怖くなった。地鳴りのする声で言われたから。

「でも、変わった名前ですね」

と言ったら、

「便宜上だ。本当の名前を言うと驚くので、怖がらせないようにそう言った」

とパッパの神様がおっしゃった。

「夢と思うなよ~」

と いつものように、節をつけて、神原誠の命様に言われると、現実だとも思えてくる。

 こちらで(この世で)生活しているのは仮の姿だと神様は言われる。もちろん、現実だ。

しかし、神様のことも現実。どちらも現実。次元の違いはあるが、同じ地球に住んでいる。

この世にも天国のような楽園と地獄のようなところがあるが、違う次元にも、天国と地獄が同居しているらしい。

 何しろ偉大なベツレヘムの神様!?と おっしゃるが・・・。

ベツレヘムというとキリスト教。でも、私はキリスト教とはかかわりない。

 いつも神様に「教会にも行かないで」と 叱られている。

「宗教ではない。事実だ」

と おっしゃったり、何か訳が分からないので、教会にはまだ行ってない。

洗礼だけは受けなければならないとも、言われている。

 実際に、ついでだが、教会に行こうとすると、

「そういう風にだと行かなくてもよい。心から行かなくてはならない」

と 言われた。

何しか神様は難しい。


 私が横を向いて眠っていると、十字架が第三の目に刺さって来た。褐色の十字架だった。

 神原誠の命様が、

「まっすぐ、天井を向いて寝なさい」

と おっしゃった。天を向いてということだろうか?

私は言われた通りにした。

「オレンジ色の十字架にしてあげなさい」

と パッパの神様が言われた。

十字架はオレンジ色になり、第三の目を貫いて、ずっと体の中心の方に向かって行き、見えなくなった。

しばらく、神様同士で何やら話されていたが、いつの間にか又、私は眠ってしまった。


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