第91話 ジャッジ
「や、やったぜキング!」
「キング凄いです!」
ハスラーとアドレスが喜びキングに駆け寄った。長老もホッとした様子で胸を撫で下ろしている。
だがその時だった。魔王ハンドがゆっくりと体を起こした。
「まだだ、まだ終わりはせんぞ」
「ぬぅ、あやつまだ立ち上がれるのか!」
「流石は魔王といったところですが……」
長老とロードスが驚き同時にハンドの力に感嘆した。とは言えキングの必殺シュートを喰らったハンドの消耗は激しい。
歯噛みしながらキングを睨んだハンドに最初ほどの余裕はない。
「その気概は見事だ。ならば決着をつけよう」
キングがハンドの気持ちに答えるべく戦闘態勢に入る。
「無様だなハンドよ」
「――ッ!?」
その時だった――ハンドの背後から何者かの声。キングたちも目を見開いた。なぜならハンドの側にいつの間にか謎の人物が立っていたからだ。
ただ、それがただの人間ではないのはキングたちにも理解できた。見た目は人に近いが頭からは角が生えていた。上背が高く全身を包み込むようなローブを纏っている。
「まさか、魔王ジャッジなぜお前がここに!」
「お前の仕事を見届ける為だ。だが、失敗に終わったようだな」
突如姿を見せた相手をハンドがジャッジと呼んだ。どうやらハンドにとってはよく知る人物なようだ。
「勝手に決めるな! まだ俺はやれる!」
「そのザマでか? 技も見破られたお前に勝ち目があるとはとても思えんな」
ジャッジが冷淡な口調で言い放った。ハンドが唇を歪ませジャッジを睨めつける。
「――盛り上がっているところ悪いがこちらも邪魔されるのは不本意だな。そこのハンドとは漢として決着を付ける必要がある」
二人の話にキングが口を挟んだ。相手は魔王であり敵だが、一度倒されても立ち上がり戦いを続けようとするハンドの姿勢には敬意を払うべきと考えていた。それはスポ根マンガの世界でもよくあったことだ。例え相手が敵であったとしても互いの力を認め死力を尽くして戦い互いに高め合う、そんな展開が往々にしてあったのである。
「――なるほど悪くないジャッジだ。だが今のこいつにそんな価値はないだろう」
「黙れ! 貴様こそ出しゃばるなジャッジ!」
するとハンドがジャッジに向けてその腕を振るった。
「やはり愚かだな。貴様のその行動――イエローカードだ」
ジャッジがいつの間にか取り出した黄色いカードを頭上にかざした。それはキングにも見覚えのある物だった。
「イエローカードだと?」
キングの顔が曇った。そしてイエローカードを見せた途端――ハンドの動きが止まった。
「ぐ、き、貴様!」
「私はお前たちをジャッジする。そういう存在だ。ハンドよお前は元々魔王の中でも評価は微妙だった。それが今回のことで如実になったな」
「ムンッ!」
その時だったキングがジャッジに向けてシュートを放った。勢いの増したサッカーボールがジャッジに迫る。
「邪魔をするな」
だがジャッジはキングのシュートを片手で受け止めた。
「そんなキングの技を片手で!」
「ハンドと違って普通に手で止めたのか!」
「信じられません!」
キングの仲間たちも驚きを隠せなかった。先程まで戦っていたハンドもキングのシュートに対応していたがそれは特殊な手があってのことだった。
しかし目の前のジャッジはそうではない。今も涼しい顔で受け止めたボールを眺めている。
「変わった球だな。だがその行為イエローカードだ」
ジャッジが再び黄色いカードを取り出した。途端にキングの表情が強ばる。
「な、う、動けない」
「え? 嘘本当!?」
「マジかよ。アドレスどうにかならないのか?」
「は、はい麻痺を治す魔法は――」
キングがうぎぎっ! と力を込めて動こうとするが指先一つ動かせずそれを見た仲間たちも慌てていた。
「無駄だ。私のカードの呪縛からは逃れられない。そしてハンドお前に最終ジャッジを下す番だ」
「ま、まさか! やめろ! 俺は魔王だぞ! 代わりなどいない!」
「自惚れるな。貴様程度の代わりいくらでもいる。そしてその往生際の悪さ――レッドカードだ」
そしてジャッジが赤いカードをかざしたその瞬間――魔王ハンドが炎に包まれた。
「ぐわぁああぁああぁああ! ジャッジ貴様、貴様ぁああぁああ!」
「魂まで燃えつきろ魔王の面汚しが」
そして燃え上がったハンドはあっという間に燃え尽き消し炭となりはてたのだった――
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