第90話 魔王ハンドの攻略法

「行くぞ! ウィン! ハスラー!」

「わかったわ!」

「任せとけ!」


 キングが号令を掛けるとウィンとハスラーが走り出した。


「無駄なことを!」


 ハンドがキングたちに左手を向け圧縮した空気を放った。一方で右手はいつでも対応出来るよう構えたままにしてある。


「シールドショット!」

  

 するとアドレスが愛用の杖ドライバーをスイングしゴルフボールを打った。魔力の込められたボールはハンドの放った攻撃とぶつかり盾となって防ぐ。


 だが、魔王の力は強くシールドはパリィィンっという響きと共に割れてしまった。ハンドがニヤリと笑った。


「これでお前たちも終わりだ!」


 しかしハンドは次の瞬間に目を見開いた。何故なら――ウィンとハスラーが宙空を舞っていたからだ。


「な、なんだと!」

「甘いわね! 一瞬でも攻撃が止まれば回避できるのよ! 行くわよサラマンダーショット!」

「さぁくらえよ僕のブレイクショット!」


 驚くハンドをよそにウィンとハスラーは空中から必殺ショットで攻撃した。二つのショットがハンドの左右から同時に迫る。


「――フッ。甘いぞ! 我が手は全てを掴み切る!」


 しかし――声を上げハンドが両手で二人のボールを受け止めた。その表情には余裕があった。


「それを待っていたぞ!」


 そこに響き渡る頼りがいのある声。飛び上がっていたウィンとハスラーの更に上空にキングの姿があった。


「両手は塞がった! これでもう俺のシュートは止められない!」


 キングが空中で宙返りしオーバーヘッドキックでボールを蹴った。勢いの増したサッカーボールがハンドに迫る。


「クッ! 気づかれていたか!」


 ハンドが叫ぶ。その表情は驚愕に満ちていた。キングは気づいていた。魔王ハンドの両手はどんな技でも魔法でも掴んでしまう。だが、一度掴んでしまえば手放すまで次が掴めない――だからこそハンドは一度掴んで消したシュートをその都度返していたのである。


 その特徴に気が付きキングは先にハスラーとウィンに攻撃するよう頼んだ。そして両手が塞がったあとにキングがシュートすることで蹴りをつけるつもりだった、が――


「馬鹿め! それならばこれをぶつけるまでだ!」


 ハンドが両手で掴んだウィンとハスラーのショットを放った。ハンドは掴んだ物の威力を跳ね上げ相手に返すことが出来る。


 ウィンのサラマンダーショットとハスラーのブレイクショット、それぞれが威力の上がった状態でキングのシュートにぶつかった。


「残念だけど無駄よ!」

「そのとおりだ。この技を教えてくれたのはキングだ! 幾ら威力を上げたところで通用しないぜ!」


 ウィンとハスラーが拳を握りしめ声を上げた。それを証明するようにキングのシュートは二人の必殺ショットを突き破りハンドに向かっていく。


「――なるほど。だが好都合だ!」

 

 魔王ハンドが笑みを深め右手を突き出した。


「馬鹿め一度手放せば私は再度掴めるのだ! より威力の高いその技、貰うぞ!」


 ハンドが喜々とした顔で言い放った。だが――キングのボールは途中で軌道を大きく逸しハンドの横をすり抜けていった。


「――は? 外したのか? フン、馬鹿め! 威力が高かろうが当たらなければ意味がない」


 ハンドが興ざめだといった顔で悪態をつく。キングが地面に着地しハンドを見て笑った。


「お前に一つ教えてやろう。今の必殺シュートの名前は――ブーメランシュートだ」

「何? ぐぼぉッ!?」


 直後ハンドが体を仰け反らせうめき声を上げた。


「ば、馬鹿な後ろから、だと?」


 ハンドが目を白黒させ呟く。キングの打ったシュートはハンドの背中にめり込んでいた。そう軌道を変えたキングのボールはまさにブーメランのように舞い戻ってきてハンドの背後から直撃したのである。


「幾らお前の腕でも後ろからくる攻撃まで掴めなかったようだな」

「く、そが――」

 

 そして魔王ハンドが地面に倒れた。それを認めキングが言い放つ。


「試合ならオウンゴールでも勝負ならパーフェクトだ」

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