第88話 ハンドの能力

「理解したようだな。だがそれはお前たちに絶望を叩きつけるだけだ。この私の手はあらゆる攻撃を受け止め威力を倍にも三倍にもして返すのだからな」


 ほくそ笑みながらハンドが語った。それは大凡キングの予想した能力と同じであった。


「むぅ。流石は魔王と言ったところか。よもやそのような力まで持っているとは」

「キング! 何か打つ手はないのかよ。あんたの球技はこれまでだってどんな相手も蹴散らしてきたじゃんか」


 ハスラーがキングに呼びかける。無論キングにしても同じ考えであった。キングの球技はここまで通用しない相手は初めてであるが、それでも――


「安心してくれハスラー。俺だって諦めるつもりはない。いや、こんなときに不謹慎かもしれないが寧ろ俺は胸が高まるのを感じている。わくわくするって奴だろうか」


 キングが自らの胸をギュッと握りしめ答えた。確かにキングの目からは絶望感など全く感じられず寧ろメラメラと燃え盛るようですらある。


「勇者が残した本でもそうだった。あの本に出てくる人物たちはみなピンチの時こそそれを楽しんだ。悩んだり苦しんだりすることもあるがそれを糧にして成長し最終的には苦難を乗り越えていき、より強くたくましく成長していく。そんな姿に俺は憧れた」


 それはキングの本心だ。だからこそ強敵と対峙することは寧ろ望むところといったところなのだ。


「流石ねキング。だけどどうするの?」

「……こういう時はとにかく色々試すことだ! サッカーが駄目ならこれだ! ボール!」

「キュ~!」


 キングが呼びかけるとボールが分裂し体を変化させた。それはバレーボールの球でありキングはボールを上空高く放り投げそしてハンドに狙いを定めた。


「これが取れるか! 巨大球撃タイタンアタック!」

 

 キングの強烈なアタック。その衝撃と圧力によってボールが膨張し巨大な球体となってハンドに迫った。


「そうかあの大きさなら受け取れない!」

「流石キングです!」


 ウィンとアドレスがキングの考えを読み称えた。確かに一見するとハンドの巨大な手でも掴みきれない大きさである。


「甘い!」


 しかしハンドは右手を使いなんとキングの必殺アタック受け止めた。その瞬間に球がまた消え去った。


「くそあれでも無理なのかよ!」


 ハスラーが苦々しい顔で呟いた。


「ほら返すぞ!」

 

 しかもハンドはまたもよキングの技を返してきた。しかもキングの放ったアタックよりも大きくなってだ。


「不味いわ空中じゃ避けられない!」

「キング!」

「いや、避ける必要はない! はぁああぁああぁあ!」


 戻ってきたボールをなんとキングは空中で受け止めトスしてみせた。そうキングが覚えたバレーボールの技は何もアタックばかりではない。華麗なトスもキングの強みなのだ。


『……凄い。とんでもない体のバネをしています。それ故に空中であっても衝撃を完全に分散させたのです!』


 ロードスが随分と熱く語っていた。まるでスポーツ物の解説者の如く。


「……キングにばかり頼ってられないわ! 私だって!」


 するとウィンがラケットを片手にテニスボールを宙に投げサーブした。


「サラマンダーサーブ!」


 ボールが炎に包まれ魔王ハンドに向かっていく。


「ヌルいわ!」


 しかしハンドはそれもあっさり左手で受け止め消えたボールを返してきた。


「キャッ!」


 より強力になって戻ってきたことでウィンも思わず悲鳴を上げて避ける。


「僕だって! ハスラーもビリヤードの技術でショットするがやはり無駄だった。今度は右手で受け止められ跳ね返された。そう、どれもこれもハンドの手によって遮られ全く通じる様子がない。


「ならばこれでどうだ!」


 今度はキングがバスケットボールのドリブルを決めていく。しかもキングのドリブルはただのドリブルではない。


土離震ドリブル!」

 

 そうキングのドリブルは何度も地面に叩きつけることで激しい揺れを引き起こす。

 

 さすがのハンドもこれは掴むことができずしかも足を取られてしまえばキャッチすることもうまく出来ない筈、そう思われたが――ハンドは左手で地面に軽く振れるだけで揺れを止めてしまった。


「馬鹿な。揺れさえも止めただと?」

「フンッ。その程度の技、左手を添えるだけ、それで十分だ――」

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