朱色の薔薇
学校からの帰り道。いつものように自転車を漕ぎ、花壇が横にある道を進む。
自転車が風を切り、露出した肌に風を感じさせた。スピードはかなり出ている。
色が視界一杯にあったのが晴れ。今度は真っ赤になった。ここの花壇はある時期が来ると、バラでいっぱいになる。今年もバラの咲く時期が来たか。僕はぼんやりと感じる。
前方、約50mほど前に人影が感じられる。スピードを落とし、横を過ぎようと思った。
しかし、良く見れば人影は女の容姿をしており、同じ学校の制服を着ていた。
気になった僕は女に声をかける。
「何、やってるの?」
スケッチブックを手にした女は座っていた小さい簡易椅子から腰が落ちる。
「ごめん!驚かせて」
僕は女が落ちた拍子に落ちた鉛筆を拾い上げ、女へと手渡す。
「ありがとう」
女は目を合わせず、スカートをはたきながら鉛筆へと手を伸ばした。少しだけ、その小さな指の触れる。
お互い何を喋れべいいかわからず沈黙に落ちる。遠くでタイヤのチェーンの音がする。
「えっと……何、聞いてたんだっけ…」
女は下を向いてぼやいた。
「えっと……何してるのかなって…」
俺も少し俯きがちにぼやきに答える。
女は反応を示して、少しだけもじもじしたが、やがて手にしているスケッチブックを開き描いてあるバラを見せた。目の前にあるバラとそっくりであった。
「すげー…これ、さっき描いたの?」
女は頷く。
「絵描くの好きなの?」
女は頷く。
「ほかに描いてあるの?」
そう言ってページをめくろうとしたとき縁を抑えられた。
「あ、ダメ?」
女は頷く。
「そっか」
僕はあっさりと女にスケッチブックを返す。女はそれにきょとんとしていた。
「なんで無理矢理、みないの?」
女は訊ねる。
「なんで?」
僕には質問の意図が汲みかねた。
「うん。みんな、もの珍しく私のスケッチブック奪うから」
それには微かに怒りとも恐怖とも取れる声色が滲む。
「だって……嫌そうじゃん?俺さ、仲良い友達で絵描くやついるからさ。そういうの一応はわかるから」
解らないなりに返した。実際、何故見られて困るのかは未だに解らない。
「ほんと?それ?美術部とかにその友達っているの?」
急に声色が変わった。幾分さっきよりも頬があからんでいる。
「いるよ。なんで?」
「いや、その……私も美術部だから」
女は、ぼそっと呟く。
「そうなの?……あーあ、美術部展近いもんね。それで、スケッチしてたんだ。」
府に落ちた僕の前には、スケッチブックをギュッと抱えて込む女が立っている。
「美術部展に見にくるよね?その友達の作品あるんだし」
「んー、そうだね。行かないと怒られるしな」
我が校では文化祭のとき、美術部が展覧会をやるのが恒例であった。その展覧会が俗に言う「美術部展」だ。
「じゃ、……」
何かを言っているのはわかったが、何せ女の声は終わるにかけて聞き取りづらく聞こえなかった。かと言って、言ってから少し時間が経っているし、何やら下を向いて考え込んでいたため聞き直すもの気遅れする。
「名前は?ほら、見るとき困るじゃん?わからないと」
勘が混じりながらも何気なく話に乗ってみた。
「……そうだよね」
どうやら間違いではなかったらしい。
「赤坂花恋」
「アカサカカレン」
俺は不器用に繰り返す。
彼女は少し笑う。
「そんな、言いにくい?」
彼女は目を合わせて聞いてくる。
「それは、ね?はじめてだからさ…」
俺も引きつられて笑う。
「じゃ、楽しみにしててね。私、もう行くね」
彼女は倒れていた簡易椅子を畳んだ。
「うん。ごめん、邪魔しちゃって」
「気にしないで、楽しかったから」
彼女は僕とは反対の向きへと歩き出す。
彼女に太陽が沈んでいた。
美術部展当日。
僕は友達の作品を見終え、誘われた赤坂の作品を見つける。
「どう?」
横にはちょこんと赤坂がいた。
「すごい綺麗な色だね」
その絵は、暗い背景にバラが書かれていた。しかし、バラと言っても一般的に思いつくような赤さではなく、どこか鋭くエグい朱色のバラだ。焼けていた、バラが。
「そう…良かった…」
彼女は微笑んだ。
僕はその朱色に少し違和感を感じ尋ねてみる。
「これ、あのときの夕焼けにそっくりだね」
「あ!覚えてくれてたんだ!」
彼女は歓喜した。
それから、しばらくして恥ずかしそうに小声で呟く。
「これ、あなたに向けて描いたの。花に詳しいあなたならわかってくれるよね……答えはいつでもいいから」
そう言って彼女は僕の横から早足に行ってしまった。僕は行ってしまう彼女の後ろ姿を見つめた。
バラ12本の花言葉は「私と付き合ってください」。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます