第16話 遺産

「初めまして、テツロー、さん。」

そこにいたのはスーツを着た少年だった。

鉄郎は少し首をかしげる。

「えっと、ご両親はどこに

 いらっしゃるのかな?」

「どっちも消されたさ。

 親父も、母も。」

また衝撃がはしる。

「え、つまり、君の父さんが、

 品川社長ってこと?」

「そうさ、そしてその子である

 僕の名字もまた、品川。

 世にいう二世というヤツさ。」

「…」

鉄郎は、目の前の現実を

受け止められずにいた。

言葉を失っている鉄郎を見、

品川がまた口を開く。

「<なんでこんな子供が社長なのか>

 って思うだろう?」

目を丸くしたまま、ただ頷く鉄郎。

「…5年前、

 大規模なリストラを発端とした、

 前社長、品川率いる革派と

 立川派の抗争。」

—黒いロボットが街を、みんなを

襲った抗争だ。

一週間前の鉄郎なら

耳を塞いでいただろうが、

今となっては釘付けだ。

「その戦いが加速する中で、

 父、前社長は殺された。

 跡形も残らなかった。

 きっと、今は岩手の山の中さ。」

少年は、しかめっ面で床を見つめた。

「父は病死ということにされたが、

 そのタイミングで

 立川が社長に就任するのは

 明らかに、不自然だった。」

大きな丸眼鏡をグイッと上げる。

「そこで、残った前社長の遺族で

 子供の僕を社長に就任させ、

 操り人形にしたのさ。」

震えた。

この2030年の時代にまだ

こんな支配の仕方が残っていたのか。と。

「だが僕も年をとる。

 立川へ復讐するために僕は、

 父の遺物であるロケリオンと、

 古い友人の鉄郎、

 君を差し向けようと考えた。

 …勝手にとっちめてくれたらしいけど。」

鉄郎の脳がやっと追いつけそうだ。

「社長が、お父様が、

 私のことを話しておられた、

 の、ですか?」

「いや、物心ついた時にはもう、

 ほとんど会えなかった。

 でも色んな人が君のコトを

 話してくれたよ。」

一拍おいて、

「…たとえば、

 君を案内してくれた男性。

 彼は、君と一緒に駅に立ってた、

 中園、のいとこ。らしいよ。」

「え…?」


「鉄郎さんには、いっつも

 びっくりさせられる。とは

 聞いていたけど、

 想像以上だよね。

 ロボットに乗って女の子

 連れてくるなんて。」

窓にへばりつく小さな背中に

話かける中園。

「うん!…はい!」

外を見るのに夢中で話を聞いてない。

「…なにか面白いもの、あった?」

「ある!でっかいふうせん!

 ひくうてい?…です!」

テルが指を必死にのばす。

「え?」

見上げる中園。

「うわぁ、こりゃあ大変だ。」

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