第9話 百面相

午前9時頃、鉄郎は久慈駅の車庫でテルの髪をいじっていた。

若い男がダメージを受けたロケリオンをせめて列車としては動くようにとメンテナンスを引き受けてくれた。

「すまないメトキ、何か手伝えることはないか?」

「いいんですよ、鉄郎さん。あなたは僕の超大事な恩師なんですから。それよりロケリオンをココでかくまってることが知られるのが怖いですね。バレたら首がトんじゃいます。」

メトキが列車の底の部分に上半身を突っ込んだまま答えた。

「テツローさん!くび!トぶ!」

「変なとこだけ抜き出さないで…」

メトキが微笑をたたえた顔を底から引き出す。

「ここは、岩手は、<立川派>の管轄じゃないですか。」


<立川>。嫌な単語を鉄郎は思い出した。


2025年、女神鉄道が本州を掌握してから2年後、

大々的な人員削減リストラを目前として、

社内の対立は遂に臨界点を超え、暴力に満ち満ちた抗争へと発展した。

リストラに反対する勢力のトップには立川という男は、

その危険な発言の多さから想定よりも多くの人数を傘下へと加えることができなかった。しかし…


「ああっ!壁がっ!」

「あっ!」

ロケリオンは戦闘のあと、うまく元の、列車の形態に戻れなかった。

後ろの部分から尻尾のように飛び出た足が、シャッターケースを押し込んで、

壁を歪めてしまっている。


「ど、どうするんですかこれ!?こ、こんなのバレたら…」

メトキが脱力してしまい膝立ちになる。

「吊るされて干物ひものにされてしまいますぅ!」

ぼろぼろと泣き出してしまった。

「ご…ごめんって。書類を出せば何とかなるから…」

「何と無責任な!」

「ヒャッ!?」

急に血相を変えて睨みつけてきたのでテルが少し宙に浮いてしまった。

「ぐぅ、こうなったら…」

しかめっ面でうつむいた。

「…ん?待てよ、こうなったら…」

一転、メトキの顔がパッと明るくなる。

「全力で援護して、立川を倒してもらいましょう!」

「へ?」

「こっちに<ミド>のパーツとか武器があったハズ!」

メトキが表に向かって全力でダッシュしていく。

思わぬ幸運が巡ってきた。

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