第8話 回送

2023年の春、鉄郎と品川は酒の席にいた。

品川は<祝 女神鉄道 本州統一>と書かれたテープを折りたたむと、

「あぁ、デカい夢だったが、いざやってみればアッという間だぜ、な?」

と一言。

鉄郎は、きれいなスーツにクセがついてしまわないようにビッとのばして、

「いえいえ、素晴らしい功績です。社長。まさか…」

「ま、さ、か?」

鉄郎はアッと口を抑える。


「鉄郎、お前は俺が夢を叶えられないとでも思っていたのか、え?」

…お決まりのセリフが来る。

「いいか、鉄郎。人間、本気になればできないコトなんて無いんだよ、ん?」

「は、はい、すみません、シャチョー…」

「あぁ待て待て。そんなにシオれなくったっていいじゃんか。な?」

品川があまりに急いで酒をついだので、オチョコは思いっきり液体をふきだした。


「でもナァ、もう叶っちまったもんだから、なぁ」

品川がテープをしまおうと鞄を開けた直後、

「決めた。」

「へ?」

鉄郎は目を細くして顔を上げる。

品川は鞄から新聞を取り出してそれを広げると、

「世界では今もあちこちで戦争ばっかしてんじゃん、鉄郎?」

「そ、そーですねぇ」

「そこでだ、俺はこの東京から大陸をぐるりと回ってカルフォルニアの海岸線まで、線路で繋げてやろうと思う、どう?」

「は、い?」

「国の間ですれ違いが起きるのは互いの交わり、行き来がないからだと俺は思う。だから俺がそれをくっつけて世界を平和にしてやる、そんな感じ。」

「ぇ…」

どう考えても酔っ払いの妄言だった。だが、すっかり赤く染まった顔とは裏腹に、彼の目は照明の光をうけて透き通っている。

「さぁ、やるぞ、鉄郎。俺は、やると言ったらやるオトコだ。」

眉をギュッと引き絞ってこっちに差し込む目線に火が付いた。

本気の目だ。

「どうだ、鉄郎。やってみないか。一緒に、世界から、戦争を無くさないか?」


がっちり掴まれた両肩からその熱意と、平和の、笑顔のイメージが鉄郎の脳髄へと駆け上がってくる。

―――<地球鉄道>―――。

鉄郎は鉄道員になる夢も、憧れの人の夢に添い遂げることも叶えた。幸せ者だった。

だが、この夢には、地球鉄道には、自らの命を懸けてもいいと思えた。

鉄郎はこの日、真の天職に出会ったのだ。


「…やりましょう。」

「おゥ!そうと決まれば明日から、と、言いたいが、

まずは統合したてで荒れっぱの社内からナントカしないと、だな!」

品川は力強く机に手をついて立ち上がった。

「ァ、いいよ、俺が払う、よ」


…社内の抗争が激化するのは、黒いロボットが平和を破壊しつくすのは、その2年後の事である。

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