第4話 覚え

「ソレ、ロケリオンだろ?」


「ハチ、お前コレのことを知ってるのか?」

「…ん?いやいや、今ので全部さ。

ただ流れてきた噂なもんで。」


残念。武器も手探りな現状で、何か情報が出てくればどんなにか楽になっただろうに。

「…」

ハチは喉に魚の骨がささった時のような

不快と苦悶のまじった表情をしている。

「どうしたんだよ、ハチ」

「いやサ、びっくりしちゃって。

またそんな大役もらえて良かったじゃない。」

「ああ。」


ああ、その通りだ。社長は面倒見の良い人で、

私ともよく話をしてくれた。

あの人の為にまた働ける。光栄この上ない。


「てっちゃ!」

高い声が下から突き上げた。テルだ。

「…ちゃんと拭いたか?」

テルは自信に満ち溢れた笑顔をこっちに向けた。


が、どう見ても脚に滴ってるソレは…

「…まあ、そうだろうな。」

鉄朗は静かにため息をついて拭き取った。

「む!」

全く何が悪いのかわかって無いようだ。

拭き方までどうやって教えようかと思うと

またため息をついてしまった。


「じゃあそろそろ行くよ、ありがとう、ハチ。」

サイドシートを開けるが、

テルは特等席のヒザにどっかり座りこんだ。

「てっちゃん…お似合いだナ。」

「は?」

「…テルちゃんと。」


…鉄朗とハチは微妙な笑みを睨めっこしたが、

気恥ずかしくて仕方なかったので

さっさとマスコンを動かしてしまった。


景色と共にハチもスライドしていく。

「気をつけろよ。鉄朗。」

ハチは言い放って、小さく風景に消えていった。

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