閑話3 ミリタリーパレードを知る者来たれ
朝、イーノが地球の自室で目覚める。
次の夜、また夢召喚されるまでにやるべきことはハッキリしていた。
さっさと地球側で、勇者候補生の募集を開始しよう。
急ぐ理由としては、やはりビッグ社長たちの現在の境遇だ。
最近顔を見なかったが、まさか
となると、現在の
仮に、動画で彼らを見たとしても。それは事前に収録したものか、そっくりさんの出演だろう。本物はどこか、たぶん本社のある札幌市内の病院にでも入院中のはず。
特にジュウゾウの不在は深刻で、彼無しでは丸一日使う戦争イベントを開催できないだろう。
憎いあんちくしょうのビッグ社長ではあるが。こちらが地球で足場を固めて社長の座を奪うか、有無を言わさぬ影響力を行使できる立場を得るまでは、MP社に潰れられては困る。ここは敵に塩を送るべきだ。
そもそも、上杉謙信が武田信玄に塩を送った話も美談ではなく。ビジネス上の利益のためだとする説もある。戦には金がかかるのだから、戦国大名は皆何か商売や投資をしていた。経済で読み解くと、歴史の新たな側面が見えてくるものだ。
ところで、どうやって他の地球人を誘うのか。
ここまで読んでくれたあなたもご存知の通り、私たちの地球では「夢渡り現象」が科学的に認知されてない。普通に説明したところで、鼻で笑われるだろう。だから、こうして異世界もの小説の体裁で広める努力をしている。
別に、異世界の存在を科学的に立証する必要などない。ファンタジーとして広まりさえすれば、それは現実に影響を及ぼす。イギリス発の魔法学園小説なんかは顕著な例だ。一貫したテーマはあるのだから、必ずそうなるように作品を育てる。
拙作「勇者になりきれ!」がそのようになるためには、まだ多くの階段を登らねばならないだろう。
そこでもう一つ、即効性のある動機を導入することにする。今や囚われのお姫様なビッグ社長たちMP社幹部の三人を救う大義名分だ。
本当は、この小説のファンの人に来て欲しい。現代日本の大いなる冬に立ち向かう勇者を育てることが、本来の目的だからだ。
しかし理想だけで飯は食えない。多くの場合、誰かの即物的な、差し迫った必要を満たすことでしか日々の糧は与えられない。この世はそうできている。
MP社のPBWに現在残っているプレイヤーは、積極的か消極的かを問わずほとんど現状維持を良しとする人ばかりだ。不満がある人は、とっくに去っている。今の体制がずっと、そのまま続くと思い込んでる人ばかり。結論から言えばそれは誤りだ。
PBWのライバルは同業他社でなく、他の娯楽になっている。もっとコスパが良く簡単に欲求を満たしてくれるものに人は流れてゆく。イラストだけが目当ての人にはうってつけのWebサービスも現れた。こちらも新たなイベントを仕掛けねば。
よって、私は。MP社の「偽神戦争マキナ」の小隊掲示板に「緊急任務発生!」と題して、以下の内容で救援を求めることにした。
「我々の世界の裏側、オーロラの道の彼方で。諸君らの愛するビッグ社長以下三名が『
これは、MP社のコミュニティ存続の危機を意味する。組織として未熟なMP社はまだ、中核メンバーが抜けたら会社を維持できない。
0を1にする起業家と、1を100にする経営者は必要な能力が異なる、別の職業なのだ。MP社の十年以上に及ぶ足跡を振り返ると、ビッグ社長は新作の立ち上げが得意でも、継続運営が不得手な起業家タイプだろう。
我々の共通の敵は「現状維持」であって、進む道を見失ったMP社やビッグ社長、考えの合わない他のプレイヤーではない。安定を維持するには相応の努力が必要だ。
高度成長期に作られた日本の道路インフラが、老朽化に伴う更新を迫られているように。ここは小さな違いを越えて、MP社のコミュニティを守るため団結しよう。
私はMP社やビッグ社長個人に媚を売るつもりは無く、MP社のコミュニティとそこで知り合った友人たちに恩義を感じて行動している。ADHDの私に居場所をくれた彼らに。
唯一、MP社のPBWが他の娯楽に負けないもの。それはSNSやオフ会を通じた参加者間の「つながり」だ。職場のしがらみなど一切無しで、立場を問わず友達を作れる場所。当然人の集まる場所だから、トラブルもいじめもあるが。
この「つながり」は、空気の如くタダで享受できるものではない。多くの人の努力と創意工夫によって維持されている。それを忘れた時、MP社の繁栄も終わる。
宇宙に出た宇宙飛行士が、青い地球を見て水も空気も限りある宝だと気付くように諸君も目覚めてほしい。
現地へ渡る唯一の方法、「夢召喚」の概要について触れておく。
まずは、これを読んでいる貴君がどんな持ちキャラ(うちの子や俺の嫁でも良い)を使うか決めておいてほしい。その姿で戦うことになる。
本任務は、毎晩地球と異世界を行き来する長期戦となる。ぜひ愛着のあるキャラを選んでほしい。こちらで行動するための身体「アバターボディ」を調整する参考にしたいので、持ちキャラのイラストなどがあればなお良い。
自分自身の身体を含め、地球からは何も持ち込めず、また地球には何も持ち帰れないので留意すること。その代わり、たとえ地球側で障害を負った身体でも現地では、万全の状態で活動できる。おっさんでも老人でも若者同然だ。
最初は後方拠点の「氷都市」に召喚されるから、そこで訓練を積み。氷都市の市民となる資格を得て、市民軍の一員に加わってほしい。ごろつき同然の浮浪者では、冒険者として活動する許可が降りない。
私もしくは、ビッグ社長と直接面識のある人なら。
現地の協力者が操る「
あなたが氷都市で「勇者候補生」になったなら、見込みのある人を紹介してもらってもいい。
その他、ネット上に個人情報を出さずに
それでは…ミリタリーパレードを知る者来たれ!
氷都市で会おう、未来の勇者諸君。
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