検証
「レア度ではドラゴン以上とは言いましたが、それほどの強さもなく、強みを全く活かせませんでしたね」
腕を全て切り落とされ、首をもがれ、装甲を切り裂かれたロボットが沈黙している。それは一方的な虐殺だった。その場から一歩も動けず、向きを変えるのにも苦労していたガーディアンZZをナール子爵が一方的に嬲り殺しにしてしまった。
気を抜くことはなかったとは言え安心して観戦できる程度には安全だった。ティオネル様も途中から程よく力が抜けていた。
「それにしても文献で見たことしかなかったですが、出現モンスターの局所召喚とは。これがアダマンタイトゴーレムだったのならもう少し苦労したんですが」
ナール子爵のぼやきに反応したのか、魔力が一箇所に集まってアダマンタイトゴーレムが生み出されようとしている。何処かの誰かが聞いているのか、技神の塔自体が生きているのか、それともティオネル様の凶運の賜物でしょうか。そんな馬鹿なことを考えていると更にナール子爵が叫びだします。
「これが大量だと本当に不味い!!守りきれないかもしれない!!」
わざとらしい棒読みな叫びでしたが、目の前で反応が増えるのを見せられると効果はあるようです。
「ボーナスタイムですね。後ろに下がっていてください」
ナール子爵が剣を鞘に収めて拳を握る。確か、近接武器で攻撃すると一定確率で武器が破壊されるのでしたっけ。あれ?素手って確か武器扱いでしたよね。外すじゃなくて素手のアイテムを装備する形だったはず。
そんなことを思い出しているとアダマンタイトゴーレムを殴っていたナール子爵の拳が砕けて血が飛び散る。骨が皮膚を突き破っているようですが、持続回復魔法をかけていたのかそれもすぐに治り、また砕ける。アダマンタイトゴーレムもドロップ品の鉱石以外はすぐに消滅し、新しいアダマンタイトゴーレムが生成され、何度もナール子爵によって砕かれる。ついでのようにナール子爵の拳が何度も砕かれる。
私に出来ることはティオネル様の頭を抱きしめて目と耳を塞ぎ、この悲惨な光景を見せないようにするので精一杯だった。さすがに笑顔は止めて欲しかった。ちょっとホラーっぽくなってますから。
ドロップ品の血塗れのアダマンタイト鉱石を回収しながらティオネル嬢の凶運に関して考察する。確かに普通では考えられないような事態が発生し、ティオネル嬢だけでは絶対に乗り越えられないような状況に陥る。ただ、何となくではあるがコントロールすることが出来る上に上手く立ち回ることが出来れば大きな利益に繋がる。
おそらくだが、ティオネル嬢の不安、それが凶運に作用する。塔を登りながらフロアボスやゴーレムを狩ることを伝えていた。それらが混ざった結果がガーディアンZZに繋がり、その後の私のぼやきからアダマンタイトゴーレムの群れに繋がった。つまり実現できる可能性が存在し、ティオネル嬢の不安が合わさった時、不運が襲いかかる。帰りにも実験してみましょう。それが確定すれば今後の生活が多少楽になるはずだ。
アダマンタイト鉱石を全て回収し、ミーシャとティオネル嬢の元に戻るとミーシャが微妙に気まずい表情を浮かべる。
「ナール子爵、その、もう少しスマートな方法はなかったのでしょうか?」
「何本も剣を折られるのはスマートではないですから。拳なら幾らでも治癒出来ます」
不壊属性の武器は決まって重い。重い上に加工難易度が高すぎて刃を形成することが出来ない。そうなると必然的に重さを利用した武器、ハンマーや大剣のような武器に加工するしかないのだ。ハンマーや大剣はゴーレムに有効に思えるが、実際のところは使い手次第で決まる。私の場合、ステータスのゴリ押しになる。ハンマーや大剣を扱ったことがない以上、それしか方法はない。
勘違いしている人も多いですが、応用ができる武器というものは極めて希少なのだ。そして、あくまでも応用なのだ。棒術が使えれば槍も扱えるなんてことは絶対にない。同じカテゴリーの武器でも長さが違えば、重心が違えば、材質が違えば、流派が違えば扱い方は全て変わる。
例えばだが、槍は突く物というイメージがあるが、実際には構える、叩く、払う、斬る、投げる、蹴るなどの扱い方が存在する。有名所では織田信長の三間半槍、6mほどの長さの槍で上から振り下ろして叩くという使い方をする。この槍で突く場合と叩く場合では12倍の力の差が生まれる。ちなみにほぼ使い捨てで運用しなければならないぐらいに運用が難しいため、戦国時代の末期には廃れた。他にもランス、馬に乗ったまま突撃してその突進力を活かす物や、先端の刃が十文字になっていて引くという攻撃動作が増える十文字槍など様々な物がある。
似ているだけで同じようには扱えない。でなければ愛用の武器として修理をしてまで同じ武器を扱い続けることなんてありえない。この世界の元はゲームかもしれないが、私達にとっての現実なのですから。
「さて、そろそろ帰りましょうか。レベルは十分以上に上がっているでしょうからスキルを取らなくてはなりません。生憎、私は弟子の育成に戻らなければなりませんのでご一緒できませんが、ミーシャには覚えるべきスキルを全て説明してあります。余った分は好きに使うと良いでしょう」
マジックバッグからダンジョンからの離脱アイテムを取り出して床に叩きつける。それが不発に終わる。新しい物を取り出し、それも不発。マジックバッグにあるもの全てが不発に終わりました。
「仕方ありません。行きと同じ方法で戻ります」
ミーシャが自分とティオネル嬢を再びミスリル綱でお互いを固定する。最終確認で私も固定が十分かを触って確認するふりをして最初から袖に隠していた離脱用のアイテムをティオネル嬢に見えないように落とす。次の瞬間には私達は塔の入り口に立っていた。
「これは、一体どういうことなんですかナール子爵」
ミーシャがミスリル綱をほどきながら尋ねてくる。
「これで確信を得られましたね。ティオネル嬢の体質は、悪い方向へのイメージが実現するということ。あり得るかもしれない恐怖がつきまとう、そんな体質のようですね。ゴーレム系のフロアボスの中でも最上級のガーディアンZZや大量のアダマンタイトゴーレム、不発する離脱アイテム。イメージが出来やすく、有り得そうな事象ほど発生する。そして魔力のように消費と回復が繰り返されている」
「どういうことでしょうか?」
「塔を登ると聞いて、それに使う道具が壊れると意図的か、無意識かは分からないけど考え、用意していた鋼の杭は折れ、ミスリルの杭にも負担がかかった。これは道具が想像できなかったからでしょう。その後、道具を確認中に聞いたゴーレム狩りとフロアボスからカオスオーガとフレアトロール相当のゴーレム系フロアボスとしてガーディアンZZ、その後のぼやきでアダマンタイトゴーレムの大量発生。それが尽きたのは体質の方の力が切れたからでしょう。技神の塔の運営に手を出すのですから相当な力を消費したはずです。そして、離脱アイテムの使用不能はそれほど消耗しないからで、ミスリル綱はほとんど消耗していない。何かに干渉するのは1つのグループだけで、杭と綱の方に意識を反らせば離脱アイテムも使用できる」
ここまでは確定していると考えていい。ここからは予測だ。
「おそらくだけど、暫くの間は安全だと思う。魔力もそうだけど、容量が多いと一日で回復しきらないように、体質の力は容量が桁違いに多いんだと思う。カオスオーガとフレアトロール自体、あるいは塔自体に干渉できるほどの容量が存在している。だけど、それも枯渇することはアダマンタイトゴーレムの出現が止まったこと、そしてミスリル綱に影響がなかったことから分かる。登る前に杭に負担がかかっていたのにね。あとはその回復量だ。今回の件でアダマンタイトが腐るほど手に入った。ミーシャ、ヨーツンハイム公爵には私の方から話を通すから家具の固定具をアダマンタイトに全て交換して負担のチェックをしてレポートを送って欲しい。鍛冶師はこちらで紹介しよう」
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
回復量が低いのであれば時折発散させれば楽になるはずだ。まさか魔力みたいに容量が拡張なんてしないよな?
養殖が終わり、屋敷に帰る馬車の中でミーシャからスキル・スクロールを手渡される。
「ティオネル様、それではこれから私が言うスキルを選択していってください。使い方は分かりますね?」
「大丈夫です」
ナール子爵様の予測が正しいのなら不安に思わなければ問題ないか、危険は低いとのこと。それに今なら不運はほとんど枯渇している。だから大丈夫。スキル・スクロールを広げて魔力を流し込む。今まで一度も発動することのなかったスキル・スクロールが発動する。
「当然ですが、必要最低限以上の魔力は既に有しています。では、シールドを10まで取得してください。発動すれば前方に不可視の盾が発生する魔法です。ナール子爵や私のような戦闘メイド相手には紙のような物ですが、そこらの盗賊の矢で破るのは絶対に無理です。これで好きな方向に発生させられるのならシャンデリアも怖くないのですが」
ミーシャが溜息をつくのも仕方がない。押しつぶされそうになること8回。そのうち5回はミーシャに助けてもらっている。確かにシールドを上に展開できたら少しは安心できる。とりあえずスクロールに浮かぶシールドの文字を10回触れる。
「続いてはレジスト・エレメンタルです。こちらは前提条件のスキルを取得する必要があります。レジスト系4種を3以上ですが、ウォーターとウィンドは10まで取得してください。その2つは魔法攻撃からのダメージを減衰する以外の重要な効力がありますので10まで上げてください。その後、エレメンタルを10まで上げてください」
「なぜウォーターとウィンドだけなのですか?ファイアとアースにも同じように減衰以外の効力があると思うのですが」
「確かにファイアとアースにも同じように別の効力があるのですが、先にウォーターとウィンドの効力についてご説明します。どちらも特定環境下での呼吸の確保が可能となります。ウォーターならば水中で10分、ウィンドは風が流れる場所で10分、呼吸が確保できます」
「それだとファイアとアースも呼吸の確保のような気がしますが」
「そうですね。火中で10分、土中で10分、呼吸以外が原因で死にますね」
言われてみればそうだ。むしろそんな環境から逃げるために別の魔法を使う必要がある。
「特にファイアは、ウィンドと範囲が被ってるんですよ。日がある場所には絶対に風がありますので」
「そうですね。分かりました。ウォーターとウィンドが10で残りが3ですね」
全てを3にした所でエレメンタルの文字が浮かんできたのでそれも10まで上げる。
「最後にヒールとキュア・ポイズンを10まで。キュア・ポイズンはポイズンと付いていますが、毒による麻痺の場合、キュア・ポイズンでもキュア・パラライズでも回復することが可能です。毒による状態異常ですので原因となる毒を取り除くことで症状を抑えることが出来ます。即効性こそ専門の回復魔法に劣りますが、そこはヒールとの併用で誤魔化せます」
「ヒールで、ですか?」
「ヒールもですが、10まで上げると追加効果がある魔法は幾つもあります。ヒールには傷の治療に加えて新陳代謝の活性、体力の回復が追加されます。ヒール系統の魔法は全てそうですね。キュア・ポイズンはレベルごとに治療できる毒の種類が増えていきます。シールドにそういった追加効果がないのが悔やまれます」
「他にはどんな魔法に追加効果があるのですか?」
「基本的には攻撃魔法です。追加で炎が纏わりつくとか、そういった類です。あとは生活魔法、ティオネル様が覚える必要のない魔法ですね。精々がライト位でしょう。追加効果で発動時間を一瞬にする代わりに強烈な閃光を発して目潰しが出来るぐらいです」
そうなると覚えるスキルが殆ど無いように思える。とりあえずヒールとキュア・ポイズンを10に上げてハイヒール、リジェネ、ライトを10に上げる。
「他になにかおすすめはあるかしら」
「そうですね、学院の授業で必要になるアロー系を2つ、ボール系をアローと同じ属性で、肉体強化、夜目、鷹の目あたりでしょうか。後半の物は慣れが必要になるので5までにしておくことをおすすめします」
ファイアは、余計なものまで燃やしそうだからパス。アースも、確かアローはストーンアローだったから避けたほうがいい。となると必然的にウォーターとウィンドになる。それらを10まで上げて、肉体強化、夜目、鷹の目を5まで上げる。
「まだ大量に余ってるのだけれど」
「では今回はそれだけにしておきましょう。ナール子爵から大量に分けて頂きましたので。無駄遣いをしなければ好きに使えばいいと許可を得ています。戦闘系に傾倒しすぎてメイドとしてのスキルは最低限でしたので良い機会です」
ミーシャもスキル・スクロールを広げて慣れた手付きでスキルを取得して終わらせる。終了後にスクロールが青い炎を吹き出して灰すら残さずに燃え尽きる。私も同じように終了させ、嫌な予感がして、レジスト・エレメンタルを発動してから終了させると青い炎が火の粉を散らして燃え尽きる。そして火の粉が私の服に付いて、魔力の膜に弾かれる。
「死にはしなくても適度の嫌がらせ程度には力が残っているようですね。レジスト・エレメンタルを切らさないように気をつけてください」
「ええ、これで少しはミーシャも楽になるかしら?」
「どの道身体は反応してしまいますから。それでも少しは気が楽になります」
そう言って笑うミーシャを見て、何も返せない自分が恨めしい。
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