第8話 まだ間に合うの?
一人だけの部屋。
自分以外誰の気配もない。
冷たい孤独と寂しさが部屋に満ちる。
一人になりたくない。
大人のくせに一人っきりが耐え難い苦痛だった。ずっと僕には茉優花がいてくれたんだ。
今更一人に戻りたくない。
僕は馬鹿な男だ。
のろのろと力の抜けた体を引きずりながらサンダルを履いて僕は玄関を出た。
茉優花に謝って戻って来てもらいたい。偽りだって、僕をもう好きじゃなくても良い。
二股だって我慢する。
こんな目にあったのに、茉優花といたいんだ。
茉優花が望むなら何だってする。
道には大きな水たまりが所々広がっていたが、僕は構わずビシャビシャと足を入れて進んだ。
いつしか駆け足で茉優花を追いかけていた。
これって……。
お母さんが出て行った時と似ていた。既視感があった。
僕は泣いていた。
声を上げずに泣いてただひたすらに足を手を動かした。
まだ間に合うの?
茉優花!
やっぱり君にはそばにいて欲しいんだ。
ハアッ……ハアッ……。
僕が曲がり角を曲がると、茉優花が男と歩いていた。
後ろ姿でだって分かる。
写真で見た二股の相手だった。
カアッと湧き上がる怒りのままに僕はその男に掴みかかろうとした。
二股だって我慢しようと思ったばかりなのに。
もうソイツも茉優花も消えてしまえばいいんだ。
僕も消えてしまおう。
僕は憎しみの衝動のままに、二人に背後から静かににじり寄った。
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