第4話 母の夢

 僕はその夜、お母さんの夢を見た。


 小学生になったばかりの頃、お父さんは家にいつもいなくて、僕はお母さんと過ごす時間ばっかりだった。


『お母さんよりお父さんと遊びたい』

『じゃあ、お母さんはいらないのね』

『お母さんもいるけど、今はお父さんに遊びに連れて行ってもらいたい』


 お父さんが全然遊んでくれないから、お母さんにぐずったのを覚えている。


 そんなことを言った次の月ぐらいに……お母さんは僕を置いて出て行ってしまった。


 激しい雨が降り、雷が鳴っていた。

 僕はお母さんを雨のなか必死に追いかけた。転びながら泥だらけになりながらお母さんを追いかけた。

 追いついたお母さんの足にすがりついて泣き叫んだ。


『お母さんっ! お母さん、行かないでぇっ』


 僕は追いかけて来たお父さんに頬をひっぱたかれた。

 お父さんに体を押さえつけられたから全身で暴れた。今度は僕の頭をグーで殴ってお父さんは家に戻って行った。


『お母さん。お母さん!

 ごめんなさいっ。ごめんなさいっ!

 僕が悪かったよー。僕を置いて行かないでー。お母さん!』


 お母さんは大きな荷物をタクシーに運び入れて、一度も僕を振り返ることなく居なくなってしまった。


 何度も何度も繰り返し見る夢。


 僕はお母さんに捨てられたとショックで女の人が怖かった。

 女の人はみんな僕を傷つける気がしたからだ。


 茉優花まゆかに出会うまでは初恋もまだだったし、女子と話すこともほとんどなかった。





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