第20話

 今度の日曜日は良い天気だった。青い空には雲一つなく、眩しい日差しが降り注いでいる。

 昼前に、僕たちは大学の最寄り駅で待ち合わせをした。萩原と栗崎さんと、もう一人、栗崎さんの友達の早川さんという女の子もいっしょだった。栗崎さんと同様、秋にある学祭の実行委員をやりたいらしく、勉強がてら見学に行くのだという。さすがは栗崎さんの友達だ。

「宮田くんもいっしょにやらない? 実行委員」

 大学へ向かう道中、笑顔の栗崎さんにそんな言葉を向けられ、僕はできるだけはっきりと首を横に振っておいた。

「いや、僕はいいよ」

「えー、ぜったい面白いと思うよー」

「そうだよ、やれよこたろー。ぜったい楽しいぞー」

 例によって横から乗っかってくる萩原に僕が眉をひそめていると、早川さんが楽しそうに

「あ、じゃあ萩原くんいっしょにやるー?」

「いや、俺はいいです」

「なにそれー」

 そんな会話を交わしているうちに、目的の大学に着いた。

 学祭はなかなかの盛況ぶりだった。手作り感あふれる大きな門の向こう、うちの大学より広いキャンパスに、ずらりと露店や展示が並んでいる。

 メインストリートはどこも人で混み合っていて、すれ違う人にぶつからないよう気をつけて歩いた。ちらほらいる揃いの黄色いジャンパーを着た人たちが、栗崎さんたちのやりたがっている学祭の実行委員なのだろう。露店の中で接客をしたり、看板を持って歩き回ったり、皆忙しそうに動き回っている。


 適当にいくつか見て回っていると、女子二人から早くも足が疲れたとの声が出た。正直僕はまったく疲れていなかったけれど、もちろんなにも反論せずに休憩することにする。

 メインストリートから離れたところにベンチを見つけたので、みんなで座っていると

「なあ早川さん、このあと二人で鉄道研究部の展示見に行こう」

 途中で買ったたこ焼きを食べながら、萩原がいくらか唐突にそんなことを言った。二人で、のところがいやに強調されていた。

 早川さんのほうもなにやら心得た様子で、「いいよー」と気安く頷いている。

「え、なんで?」栗崎さんはきょとんとして、そんな二人の顔を見比べながら

「なんで二人で? みんなで行こうよ」

「いや、栗崎たちは鉄道なんて興味ないだろうから。付き合わせるのも悪いし」

「いいよ。たしかに興味はあんまりないけど。付き合うよ、せっかくだし」

「いいって。栗崎たちは栗崎たちでなんか見たいやつ見てきて」

「そんな気遣わないでよ。せっかくみんなで来たんだから」

「いいってば。つーか、なんでそこで栗崎が突っ込んでくんだよ、栗崎のために言ってんだろ」

 なかなか引き下がらない栗崎さんに苛立った様子で、察しろよ、と萩原が声を低くして付け加える。そこでようやく、栗崎さんはなにか思い当たったようだった。目を見開いて、あ、と声をこぼす。

「ああ、そう、そっか」ちょっと顔を赤くして、あわてたようにぎこちない笑みを作った栗崎さんは

「じゃあ、うん、そうだね、そうしよう。ここからは別行動ということで!」

「うん。じゃ、またあとで」

 空になったパックを手に、萩原がさっさと立ち上がる。早川さんも続いて立ち上がると、「じゃあねー」とからかうような笑顔で栗崎さんに向かって手を振った。そのあとで、口ぱくでなにか言っていたのもちらっと見えた。


 二人がいなくなると、栗崎さんはちょっと気まずそうに僕を見て

「えっと、じゃあ」沈黙を嫌がるみたいに、あわてて口を開いた。

「どうしよっか。宮田くん、なにか見たいのある?」

「んー、とくには。栗崎さんは?」

「じゃあ、とりあえずステージのほうに行ってみていい? 軽音部のライブとかあってるみたいだから」

 僕が頷くと、栗崎さんはほっとしたように笑って、「じゃあ行こう!」と軽やかにベンチから立ち上がった。

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