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「日和ったな小娘……。もうあと数センチ奥まで押し込んでいれば殺せたものを……」

だが、声の出どころがわからなかった。どこからか聞こえてくるというよりは、頭の中に直接声が響いてくるような不思議な感覚だったからである。

「……出て来いよ、シルバー。オレはまだボロボロだ。殺すならチャンスだぜ?」

雫が挑発するように言葉を投げる。

「……日和ったとはいえその小娘の勇気とやらに敬意を払って今日は引いてやる。殺すのはまた次回のお楽しみだ……」

「へっ……。流石のお前もオレらの相手が出来ないくらいダメージを負ったみたいだな。姿を現さないところをみると、相当デカい傷なんじゃないか? ……ざまあみろ、舐めてかかるからだ」

雫もそうだがシルバーの声も苦しそうに震えていた。少し間を置いてシルバーが話す。

「……フッ。勝手に言っていろ……。だが次に会うときは小娘、貴様も私のターゲットだ。二人まとめてあの世に送ってやる」

「じょ、上等ですよ! いつでもかかって来てください!!」

「相変わらず啖呵だけはいっちょ前なんだよなぁ……」

既にシルバーは去ったのか、返事は無かった。それを確認すると、雫とソフィアの二人は同時に地面に倒れこんだ。

「フーっ……。なんとか今回も撃退出来たか……」

「あの……。もしかして毎回襲撃ってこんなにハードなんですか……?」

ソフィアが恐る恐ると言った感じで雫に訊いた。

「何? ビビってんのソフィアさん」

「び、ビビってないですよ! ただ今日は特別ハードだったりしないのかなーって……」

「まあ……、いつもはあのバカ三人がいるからコンビネーション取った戦いが出来るんだけどね。一人のときはこんなもんだよ」

「うへぇ……」

ソフィアは思わず顔をしかめてしまう。

「自分から首突っ込んどいてなにを……。まあ、でも────」

それを見て雫がニヤリと笑った。

「これでソフィアさんもターゲットにされたみたいだし。もう逃げられないぜ?」

「わ、わかってますよ! いまさら引くわけないじゃないですか!」

「そうかいそうかい。……それにしてもソフィアさん。よく躊躇せずにヤれたね」

「な、何をですか?」

「攻撃をさ。あの一突き。……てっきりマンガとかでよくある直前で、『出来ましぇ~ん!!』とか言って、ウロウロするのかと思ってたよ」

「いや……。正直に言うと直前までは全然出来てなかったです……」

そう言ったソフィアの表情は影を落としていた。

「覚悟も何も無かったですけど……。あそこで私が何か行動しないと間違いなく黒川君が殺されるって思って……。そう考えたら自然と手が動いて……」

そう言いながら自分の手元を見たソフィア。その指先は震えていた。

「あ、あれ……? 今になって指が……。……あはは……。よく考えると二人……こ、殺してしまってたかもしれないんですね……。あっ、黒川君はそうか……」

ソフィアは身体を起こすと、足を引き寄せて、膝のあいだに顔を埋めた。表情が読み取れないが、微かに身体が震えていた。

「……ソフィアさん。オレは出来た人間じゃないからこんな時に気の利いたセリフなんて言えないけどさ。ここまできたら、押しつぶされるか、慣れるか。どっちかしかないと思う。どうなるにしてもソフィアさんのフォローはするからさ」

上手くフォロー出来ない自分に嫌気が差したのか、雫は頭を掻きむしる。

「……黒川君は誰かを……こ、殺してしまったことって……あるんですか?」

雫の言葉には答えず、ソフィアは顔を上げると質問をした。瞳が僅かに濡れている。

「あるさ。何回もね」

雫はためらうことなくハッキリと答えた。

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