23

「はっ。コンビネーションもよろしくないと。これでは一人で戦ってた方がよかったんじゃないか? どうだ? 今からひとりずつ相手をしてやろうか?」

挑発するようにシルバーが言った。それを聞いて怒ったのか、ソフィアが前に突っ込んで行く。

「そんなこと言って! 本当は二人同時に戦うのがつらいんじゃないんですか!?」

「フッ……。そうやってすぐに頭に血が上るのをどうにかしたほうがいいぞ? ……まあもう遅いがな」

ソフィアの横薙ぎをしゃがんで回避するシルバー。右手に握られた刀が怪しく光った。

「ソフィアさん!!」

「キャッ!」

雫がソフィアを横に突き飛ばす。地面に倒されたソフィアが態勢を立て直そうと顔を上げる。その目に映った光景は……

「グッ……、ハッ……」

「黒川君ッ!!」

下から突き出されたシルバーの刀は、雫の右胸を貫いていた。震える頭でゆっくりと自分の胸を見て、状況を確認した雫は吐血した。

「おっと、違うやつに命中したか。だがまあ、本命だからいいか。とりあえず『一回』────」

そのままシルバーは刀を抜こうとする。

そのとき

「ソフィアさん! やれェ!!」

「なに……!?」

口から血を吹き出しながら、雫がシルバーの身体を引き寄せるように掴む。

「黒川君! ごめんなさいッ!!」

ソフィアは勢いよくヴァルハニーロを突き出し、雫を背中から串刺しにした。

「……ァ」

雫が白目を向き頭が力なくガクンと傾く。身体にも力が入っていないのか足と腕がダランと垂れ下がる。

「ヌッ……!!」

シルバーも同じく口から血を吐いた。ヴァルハニーロの刃先はシルバーにも命中しているようだった。

「く、黒川君! 大丈夫ですか!?」

ソフィアは慌ててヴァルハニーロを引き抜こうとする。だが貫通した雫の身体に引っ掛かっているのかうまく抜くことが出来ない。

「す、すいません……。ちょっと乱暴になります……」

ソフィアは雫の背中に片足をあて、乱暴にヴァルハニーロを引っ張る。グチョッ、というあまり気持ちの良くない音と共にヴァルハニーロが引き抜かれる。

その勢いからか、シルバーと雫の身体はそれぞれ数歩後退してから仰向けになるように倒れた。

「だ、大丈夫ですか黒川君! ……って、ウッ……!」

ソフィアは倒れた雫に駆け寄って声をかけたが、思わず吐き気を催した。雫の身体はちょうど鳩尾辺りにラグビーボールをさらに平べったくしたような大きな穴が空いており、血だらけでぐちゃぐちゃになっている内臓が見えていたからである。

「す、すいません……。自分でやっといてなんですけど、直視は出来そうもないです……」

口元を手で押さえながらソフィアは雫から目を逸らした。

すると雫の身体が光を放ち始めた。

「……そ、ソフィアさん……。な、ナイス突きだったぜ……」

「黒川君! 意識が戻ったんですか!?」

意識が戻った雫がガラガラ声でソフィアにそう言った。よく見ると完全ではないが、鳩尾に空いた穴は塞がりつつあった。

「こ、こんな派手に死んだのはいつ以来だったっけな……。一年前に包帯女に首切り落とされたのが最後じゃなかったかな……」

「そ、壮絶な死に方ですね……。あっ、もう起きて大丈夫なんですか?」

手を着いて立ち上がろうとしている雫の腕を掴み、ソフィアは自分の肩に手をまわした。

「ゆっくりしてられないからね……。シルバーをやったのを確認しないと……」

そう言って立ち上がった雫はシルバーが倒れている場所に視線を移した。

だがそこには血痕があるだけでシルバーはいなかった。

「あ、あれぇ!? さっき倒れたのは確認したんですけど……」

ずっと雫に注目していたソフィアもシルバーがいなくなっていることに気が付き、慌てて辺りを見回す。

「フッフッフッ……。残念だったな、オレを殺せるチャンスだったのに」

「「!!」」

突然どこからかシルバーの声が聞こえてきた。雫とソフィアの二人は声の聞こえる場所を探そうと耳を澄ませる。

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