22

「ソフィアさん、しゃがんで!!」

「えっ……? きゃあ!?」

いつの間にかソフィアに近くまで来ていた雫がソフィアの頭を掴んで無理やりしゃがませる。するとタッチの差でソフィアの頭があった場所を噴出した黒炎が通った。そのまま雫は刀を横薙ぎで振り回す。シルバーはそれをバックジャンプで回避するが、わずかに腕にカスってしまった。

「チッ……。せっかく戦士として目覚めたのなら戦士らしく殺してやろうと思ったのだが」

クルリと縦に一回転し、シルバーは華麗に着地した。

「お、大きなお世話ですよ! 死なないって言ったじゃないですか!」

ソフィアは自分の頭を触り、黒炎がかすめてないか確認する。

「……ソフィアさん」

「あっ、黒川君。……すいません、助かりました。助けに来たのに助けられちゃいましたね」

「いいよ別に。それよりもさ。アイツを倒す作戦があるんだけど」

「ほ、本当ですか!? それはどんな……」

「まあ……。ソフィアさんの覚悟次第ってとこかな」

雫はソフィアに一言だけ耳打ちした。それを聞いたソフィアは思わず目を見開いてしまった。

「そ、そんなのって……!!」

「別にやんないならやんないでいいけどね。成功率は低いし、もともとコッチの戦闘は負け戦みたいなもんだし」

「で、でもあの人……。本気で黒川君を殺そうとしてません!? 逃がしてくれるとも思えないんですが……」

「だろうね。だからこそ勝つ負けるじゃなくて、オレたちが生き延びるための作戦なんだよ」

「そうかもしれないですけど……。でもこれ、仮に成功したらあの人が……」

「そのための覚悟だよ。加減したければソフィアさんの方で調整してね」

「そんな簡単に……!」

「……ソフィアさんさぁ」

そこで雫がもったいぶったような口調になった。

「悔しくない?」

「く、悔しい……?」

ソフィアが意味が分からないといったように首を傾げる。

「そう。シルバーにいろいろと言われてさ。バカにされてたじゃん? 一矢報いようとは思わない?」

「そ、それは……! ……まぁ……」

シルバーは確実に自分の事を嘗めている。それはソフィアにもよくわかっていた。

「悔しいですけど……」

ソフィアは自分の感情を押し殺せるほどおとなしい少女ではなかった。

だからといってどうすることも出来ないこともよくわかっていた。

「オレも一緒にやるからさ。ギャフンと言わせようぜ?」

雫が心底嬉しそうにニヤリと笑った。

「……いつまで作戦会議をしている。さすがにこれ以上は待てん」

一人残されていたシルバーが変わらない────いや、いっそう不機嫌そうな表情で雫たちに声をかける。どうやら雫とソフィアの二人が話しているあいだは大人しく待っていたようである。

「おお、そうだったそうだった。悪いな。忘れてたわ」

雫がわざとらしく演技をしながらシルバーの方に向き直る。

「……どうするかはソフィアに任せるけどさ。オレだったら一発くれてやりたいと思うけどね」

シルバーの方を見ながら雫がソフィアにそっと耳打ちした。

 ◇

「ていッ! ヤアッ!」

「それ! よいしょっと!」

「……フン」

しばらくしてから。

雫とソフィアはまだシルバー戦っていた。二人はシルバーを挟み撃ちにするように左右から攻撃を加えている。

だがシルバーはそれをいとも簡単に捌いている。

「どうした? 二人がかりでもこの程度か?」

「クゥ……! このッ!」

ソフィアががむしゃらに突きを繰り出す。それをヒョイと後ろに下がり避けるシルバー。

「うおっ!? アブねッ!」

ヴァルハニーロは勢いあまって雫の方にまで届く。それを慌てて雫は刀で弾く。

「ソフィアさん気を付けてよ!」

「す、すいません……」

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