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「急に大声出さないでよソフィアさん……。このスマホ、変えたばかりなんだからさ」
『す、すいません……。えっ、でも不死身って……。黒川君と同じなんですか?』
「いや、オレのは神機によるものだけどアイツのはなんていうか……。体質? みたいな」
『体質……ですか?』
「もう今日はこれ以上詳しい説明する気はないけど、『異能精霊』っていう精霊がいるんだよ。なんていうか普通にはありえない、妙な力を持った精霊が」
『はあ……』
電話の向こうの声は理解できていないようなトーンだった。
「その能力でアイツの身体は不死身で出来てる。オレの心臓神機みたいに時間の決まりが無い、いくらでも再生出来る身体でね」
『それって……。無敵なんじゃないですか!?』
「そうだよ。だからこっちが疲れるだけだから相手にしたくないんだよね」
雫は慣れた手つきでコントローラーをカチャカチャと操作しながら会話をしている。
『……復活するときっていつもあんなに苦しそうなんですか?』
一拍置いてソフィアがそう訊ねてきた。
「いや、普段はケロっとした様子ですぐに元通りになるんだけどね。確かに今日は様子がおかしかったなぁ」
『そう、なんですか……。……あの、黒川君』
「どしたの?」
『私、テトラさんとお友達になったんですかね?』
「なんでオレに聞くのさ……」
『だ、だって……。黒川君、テトラさんと仲良さそうだったから……』
「……別に。仲良くないよ」
『でも、あの包帯さんのときと違って、黒川君そんなに敵意剥き出しじゃなかったですよ?』
「……アイツはアホだからこっちまでペース乱されるだけ。それ以外は無いよ。……さっきも言ったけど所詮アイツは敵なんだ」
雫はぶっきらぼうにそう言い切った。
『でも……。仲良く出来そうな気がするんですけど』
「……そもそもだよ、ソフィアさん。あの大統領様にはもう精霊には襲われないって話だったんだ。それなのにアイツらは襲ってきた。それもオレだけじゃなくてケインたちの方にもだ。これを敵と言わずに何という?」
『長合君たちの方は……! まあその、よくわからないですけど……。でも! テトラさんは襲ってきてないですって!』
「思いっきり武器持ってたんですけど……」
『遊びって言ってました!!』
「……ソフィアさん。よく考えてみて」
雫がため息をつきながらソフィアを諭すように語り掛ける。
「あの場にいた三人のうち、二人には同じような特徴があります。さて、なんでしょう?」
『え、え~っと……。私とテトラさんは女性?』
「残念、違います。ヒント、その二人はオレとテトラです」
『え~。……う~ん。……わ、わかんないです……』
ソフィアは答えられなかったのが悔しかったのか、小声でギブアップした。
「さっきも言ったんだけどねぇ。正解は何度か死ねるってことだよ」
『ああそういえば……。え、でそれがどうしたんですか?』
「アイツの言う遊びっていうのは殺し合い。オレも制限があるとはいえ、二人とも死なないから『遊べる』んだよ。……一度死んだらおしまいのソフィアさんじゃこの遊びは出来ないでしょ?」
『あ、あー……』
理解できたのかソフィアが歯切れの悪い返事をする。
『……テトラさんって殺し合いが趣味なんですか……?』
ソフィアは恐る恐る訊ねる。
「……いや、それは言い過ぎたわ。そこまでじゃない。……とにかく、アイツの遊びに付きあってたら命がいくつあっても足りないよ」
『んんー……。わかりました……。今度テトラさんにあったらいろいろと聞いてみます!!』
「え、ちょ。今度って────」
『今日はもう頭の中がパンパンなのでもう寝ます! 明日ゆっくり考えてまとめてみますね! それじゃあ黒川君、ありがとうございました! おやすみなさい!』
それだけ言い切るとソフィアは電話を切った。雫はツーツーツーというスピーカーから聞こえてくる音に「……おやすみ」とボソッと呟いた。
「いろいろ聞いてみるって……。絶対にソフィアさんわかってないな……」
よそ見しているあいだにテレビ画面に表示されていたGAMEOVERの文字を見て、雫は舌打ちをした。
◇
神霊世界・国政総務調律機関本部パンドラ 大統領執務室にて
「なにまだ怒ってんのよ。ちゃんと謝ったでしょ?」
ユノはそう言いながらパソコンを操作する手を一瞬だけ止めると、顔を少し上げて正面をチラリと見た。
「……別にクロックナンバーをお前が動かすことにたいしては文句を言うつもりはない。だが、副長のオレに何も知らせないというのはどういうことだと言っている」
執務机の正面に立つ人物はイライラしたように腕組をしている。
「あなたに言うと真っ先に黒川雫のところに向かうでしょ?」
「当然だ。奴を殺すのはオレだ」
謎の人物は銀色の長髪をなびかせながらキッパリと言い切った。揺れ動く銀色の髪が美しく光る。
「だから今回は殺すのが目的じゃなくて調査がメインだって言ったじゃない。……その点で言うとテトラはよくやってくれたわね。得られたものは予想よりも少なかったけども」
「……そうか。バンテージまで参加していたのが妙だと思っていたが、テトラの指示か。アイツも余計な事を……」
謎の人物は舌打ちをする。
「……とりあえず終わったことはもういい。パラメル、お前が調べたがってたことを話してもらおうか。それで今回のことは知らなかったことにしておいてやる」
「大したことじゃないわよ。ソフィア・ヴェジネっていう新入りがどんなものかっていうのと、あの子たちがこれからのことでどれだけ『覚悟』があるのか見てみたかっただけ。……まあ結果は思わしくなかったけど」
「そのためにわざわざクロックナンバーを使ったのか? ……くだらんな」
「そう言わないでよ。相手が相手なんだからしょうがないでしょ。察しなさいよ」
「フン……」
謎の人物は何かを喋るわけでも無く、踵を返すとドアに向かって歩いていく。ツカ、ツカ、ツカと威圧的なほど一定のリズムで足音が部屋に響く。
「シルバー」
ユノは謎の人物に向かってそう呼び掛ける。
「なんだ?」
顔を半分だけ見せるように僅かに振り返った謎の人物────シルバーは不機嫌そうに訊き返した。
「今回私のワガママに協力してくれたメンバーは叱らないであげてね」
「……フン」
シルバーは何も答えずにドアを開けて部屋を出た。
強襲、クロックナンバー 終
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