17

「キャン!!」「うぉっ!?」

ドン、という音と共に何か大きな物体がカービーとイーリス目掛けて飛んできた。ちょうど二人の間くらいにそれがぶつかったせいで二人は手を離してお互いに後ろに尻もちを着いてしまう。

「な、なによ、邪魔しないで────って、アンタ!!」

「「「大佐!?」」」

「や、やあ……。こんな格好で悪いね……」

飛ばされてきた物体は美智であった。着地に失敗したのか、不格好なでんぐり返しを失敗したようなポーズをしていた。

「動くと思ったからスパッツを履いてきてよかった……」

「スパッツが無ければ大佐のパンツが見れたのねん……」

「いやいやそれよりも!」

勝平と少し残念そうなケインは美智に駆け寄り、手を差し出す。

「いたたた……。ありがとう二人とも」

「わ、脇腹から血が出てますけど大丈夫なんですか!?」

「ああ、まあ大したことはないよ。かすり傷さ」

二人に引っ張られる形で美智が立ち上がった。勝平に指摘された脇腹を抑える。

「包帯女は!?」

カービーが辺りをキョロキョロと見回しながら立ち上がろうとする。

が、先ほどまでの力比べのダメージが大きいのか上手く立てないでいた。

「……」

そんな美智たちから十数メートル離れた場所で、バンテージが何かを投げた後のようなポーズを取っていた。無言でこちらを見ている────ような気がする。

「ぷっ……アッハッハッハ!!」

突然イーリスが大笑いをし始めた。カービーたちは驚いてイーリスを見る。

「なによ、サムライ女! アンタ、あんだけ調子に乗ってたのにバンテージに負けてんじゃないの! やーいやーい、だっさい!!」

イーリスはそんな事を大声で叫びながらひっくり返った亀のようにジタバタともがいていた。どうやらカービーと同じで立ち上がれないらしい。

「いや……。今のテメェの無様な動きの方がダセェよ」

「う、うるさいわね!! アンタも同じようなもんじゃない!!」

そういうとイーリスはバンテージの方を向いた。

「バンテージ!! チャンスよ! コイツ等、やっちゃって!!」

「うわぉ、完全に雑魚兵のセリフだぁ……」

呆れるケインであったが、バンテージに向けて警戒を強める。イーリスたちにとってチャンスということはケインたちにとってはピンチである。一人はまだ戦闘が出来る状態ではなく、一人はわかりやすいダメージを負っている。こんな状態で戦えば結果は火を見るよりも明らかである。

「……」

そしてバンテージは無言でケインたちの方に向かって歩き出した。

「クッソ……。神機が持てねぇ……」

座っている状態であるが、なんとか神機だけは持とうとしているカービーだったが、指がうまく動かないのか、掴めないでいる。

「「……」」

勝平、美智の二人も神機を構え直して警戒態勢に入る。

だが歩きながらバンテージが話した言葉は意外なものだった。

「……帰るぞイーリス」

「「「「「!?」」」」」

その場にいた、イーリスを含めて全員が驚いた表情になった。

「な、な、なんでよ! 今は絶好のチャンスじゃない!」

「テトラから連絡が来た。撤収命令だ。……それにな」

そこでバンテージは一拍置いた。

「……どういう経緯か知らんがシルバーにバレたらしい」

「えっ? し、シルバー副隊長に!?」

「ああ。……それはもう凄い怒っているらしい。『勝手な事をしやがって』ってな」

「え、あ、あ、あ……」

途端にイーリスの顔が青ざめていく。バタバタと手足を動かし、先ほどよりも慌てたように立ち上がろうとしている。

「世話の焼ける……」

バンテージはポカンとした様子の美智たちの視線を異にかえさずにイーリス傍までやってきた。そしてそのままイーリスを肩に担いだ。

「そういうわけだ、アルノード共。運がよかったな。今日はたいして怪我せずに帰れるぞ?」

「フン! 今日のところは見逃してあげるわ! 次に会ったときこそ覚悟しときなさいよ! ……あ、バンテージ、もっとゆっくり歩いて……。振動が手の痺れに伝わってぇ……」

ごちゃごちゃ言っているイーリスと無言のバンテージはさっさとどこかに向かって歩き去ってしまう。いまだにポカンとした様子で美智たちはその後ろ姿を見送った。

「な、なんだったんだろういったい……」

勝平が呆けた様子で呟いた。

「ッチ……。結果的にシルバーの野郎に助けられたのか……」

カービーが憎々し気に吐き捨てる。

「テトラがどうとか言っていた気がするけども」

美智が脇腹をさすりながら言った。

「まあとりあえず……。大佐の怪我もあるし、大将のことも心配だし、オレっち達も帰りまひょ」

ケインがいつものように異世界渡航機を探して乱雑なポケットの中をまさぐった。

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