18

 ◇

「何がしたかったんだアイツらは……」

雫は腕を組みながら部屋の中を端から端まで行ったり来たりを繰り返していた。

「知らねーよ。あのポニテの方は変わっちまってから全然行動が読めねぇし。考えても無駄だろ」

カービーがソファでふんぞり返りながらそう言った。表情はどこかイライラしている。

「まあとりあえず! 大将もソフィアちゃんも無事に帰って来れたからよしってことで!」

ケインが手を叩きながらそう言った。

現在、雫宅のリビングに全員集まっていた。雫とソフィアも無事に帰って来れたようである。

「無事じゃないですってぇ~……。10キロ近く歩かされたんですよ~」

ソフィアはテーブルに突っ伏しながら顔だけ横を向いて話している。疲労困憊といった表情をしていた。

「しょうがないじゃないか。衡神力強補地点が近くになかったんだから」

「だからそのコウシンリョクナントカチテンってなんなんですか。このあいだも結局教えてくれなかったじゃないですか」

「……うわ、また説明しなきゃいけないのか……。えっとつまりね────」

「異世界渡航が出来る場所のことだよ」

「あっ、マーベルさん」

ちょうどいいタイミングで部屋に入ってきたマーベルが雫の言葉を引き継いだ。

「ふう……。すまないねマーベル」

「気にしないでくれ」

マーベルの後ろから少し遅れて美智が部屋に入ってくる。

「大佐。怪我は大丈夫なのん?」

ケインが心配そうに尋ねる。

「ああ。さっきも言ったけどそんなに深い傷じゃないからね。マーベルに手当してもらったからもう大丈夫さ」

美智は普段と変わらない足取りでテーブルまで歩いていくと、ソフィアの向かいの席に座った。

「ソフィア君も大変だったね」

「ま、まあ別に私たちの方は闘いがあったわけではないんで……。そ、それよりもさっきの……」

ソフィアはマーベルの話の続きが気になっているようでソワソワとしている。美智もそれに気付いたのか、「邪魔して悪かったね」と言ってマーベルに続きを話すように目で合図した。

「ああ。といっても本当にさっき一言で言った通りなんだが」

「異世界渡航が出来る場所……でしたよね? それってどこでもいいんじゃないんですか?」

「フム。そうだね、キミがこのあいだ神霊世界から帰ってきたときみたいに、大型の異世界渡航機はだいたいどこの場所でも渡航出来る」

「はい」

ソフィアは上半身を起こして、コクンと頷く。

「だけど今日雫がキミの前で使った小型の異世界渡航機はどこでも使えるわけではない。ある決められた場所でしかゲートを作れないんだ」

「決められた場所……ですか?」

「ああ。それを我々精霊は衡神力強補地点と呼んでいる。……どう例えたものかな」

マーベルが考え込むように拳を口元に当てる。

「そう……。例えばある大きな谷を挟んで二つの土地があるとする」

「はい」

「その二つの土地がそれぞれ異なっている異世界だと考えてほしい。ソフィア・ヴェジネ、キミが今片方の土地にいるとき、向かいの土地に行きたいと思ったらどうする?」

「……ジャンプ……しますかねぇ」

ソフィアはあっけらかんと答えた。

「……すまない。私の説明不足だった。谷の幅は10メートル以上あるものとしよう」

「ええ~。それじゃあジャンプは出来ないですねぇ。えっとぉ……」

ソフィアは少し考えた後、自信満々でこう言った。

「あっ! 橋です! 橋をかければいつでも渡れます!」

「そう。橋を架けるというのがこの問の正解だ。キミが何回か利用した異世界渡航機とはつまり、橋だと思えばいい」

「ああ~、なるほど。理解出来ました! ……あれ、でもどこでも繋げられないっていうのは?」

「それも橋で例えよう。キミは目の前に橋を架けたい。当たり前だ、わざわざ遠いところに架ける意味はないからね」

「そうですよね」

「だけどキミの目の前の土地は脆く、橋なんて重たい物を設置したら崩れ落ちてしまうとしたらどうする?」

「そりゃあ……、足場が頑丈な場所を探すしかないんじゃないですか?」

「そう。その探す行動というのがさっき雫と延々と歩いていたことだよ」

「……ああ! つまり何かが脆いせいで……、その何かが強い場所じゃないと異世界渡航機が繋げられない、ってことですか?」

「……キミは察しが良いのか悪いのか判断に困る」

マーベルがボソッと独り言を呟いた。

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