12

「非日常的な体験をしたから脳が興奮して思いがけず環境に順応したんだろう。……いろいろと大変だったね」

「あっ、すいません。ありがとうございます!」

マーベルはそう言いながらカレーがよそわれた皿をソフィアの目の前に置いた。ソフィアは元気よく礼を言った。

「ソフィアさんのことも……。どうすりゃあいいんだか……」

ため息をつくと雫は一人、食卓の椅子ではなくソファの方に座り込んだ。その表情は曇っていた。

「こうなっちゃったら私も仲間に入れてもらうしかないですね!」

「活き活きしてるなー」

「怖いもん知らずなのか、ただの馬鹿か……」

変に評価するケインと呆れるカービーであった。

「そう言えば荒舘彫耶。本田小鳥から連絡が来てたが」

ふと思い出したようにマーベルがカービーにそう伝える。

「あ? お前のところにかよ。……で、なんだって?」

「連絡が取れないから心配していた」

「チッ……。んなことでいちいち他のやつに確認すんじゃねーよあの女。鬱陶しいな」

カービーが不機嫌そうに舌打ちをした。その様子を見てソフィアの目が光った。

「須藤君、須藤君。本田小鳥さんって誰ですか?」

「エットね。カービー君の彼女……かな?」

そう聞いたソフィアは目を見開いて驚いた。

「ええっ!? 彼女さんですか!?」

「よーし勝平。表出ろ。ぶっ殺してやる」

カービーが腕まくりをしながら席を立った。勝平はまあまあと宥めているが、その顔はにやけていた。

「おいヴェジネ。そいつの嘘を信じんな。彼女でも何でもねぇよ」

「もー、カービーったら照れちゃってぇ~。カノジョは大事にしないとダメだぞ♡」

ツン、とカービーの頬をつついたケインは、カービーの強烈なビンタを喰らい吹き飛ばされる。倒れたまま「ほ、本気でぶたなくても……」と呟いているケインを助けようとするものは誰もいなかった。

「ええ~、カービーさん彼女いたんですか~。意外ですよ~」

「だからチゲェつってんだろッ!! そのバカ共の冗談だ!」

「でもなんか反応が誤魔化すみたいですよぉ?」

「……よーしわかった。よっぽどのことがネェと女殴んないつもりだったがしょうがねェ」

「わ、わかりましたよ……。この話題はもうしませんから……」

指をポキポキと鳴らしながら睨みつけてくるカービーを見て、さすがにソフィアが諦めた。年頃の女子高生として、恋バナには興味があったのだが。

「それで雫。どうするんだこれから」

カレー組がじゃれあっているうちに、いつの間にかソファに座っていたマーベルは雫と話し合いをしていた。

「どうってなぁ……。ソフィアさんじゃないけど、オレにもわからないことが多すぎるよ。ソフィアさんと大佐の妙な関係もわからないままだし、オレの今後のことも……」

「おそらくだがこれから再び神霊世界に行くことになるだろう。そのときは私も同行する」

「ああ、そうしてくれると助かる。……てかなんで大佐とマーベルは連れてかれなかったんだろ。マーベルなんてバリバリオレ等の協力者じゃん」

「……さあ? なにか理由があるんだろう。……それより、しばらくはこのまま普通の暮らしが出来るんだろう?」

「そうらしい。クロックナンバーの連中にも襲われることが無くなったみたいだしラッキーだね」

雫が吐き捨てるように言った。

「フム……。何をされるのか、何をすることになるのか、まだ不明瞭な事が多いがとりあえず言われた通りに従ったほうがいい。神霊世界の政府にたてつくのは賢いやり方ではない」

「わかってるよ。さすがに精霊王相手に攻撃するような真似はしないって。……まあオレのこともあるけど……。ソフィアさんのことをどうするかだよなぁ」

雫は頭をポリポリと掻きながら、今日在ったことについてケインたちと笑顔で談笑しているソフィアを見た。この能天気の扱いをどうするかがまだ決まっていなかった。

「相手さんは完全にオレの協力者だと思っちゃってるしなぁ。どうしたもんか」

「まあゆっくり考えればいいさ。切羽詰まってるわけでもないし」

そこでソフィアが雫の方を向いた。

「なになに? 私の話ですか?」

「……なんでもないよ。マーベル、ちょっと研究室に入れてくれないか」

「ああ」

返事もソコソコに部屋を出て行こうとしている雫の背中を見て、そう言えば雫の心臓神機についてまだ聞いてないことがあったなぁ、とソフィアは思い出した。

だが食欲には勝てず、目の前のカレーを食べることに集中することにした。



邂逅、神霊世界 終

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