強襲、クロックナンバー
1
次の日の塔音学園、昼休みの時間にて
「ふ~ふふ~ふふん♪」
ソフィアはご機嫌に鼻歌を歌いながら廊下を歩いていた。
「あれから黒川君たちが私を邪険に扱わないでくれてますし、このままいけば仲間に入れてくれるかも……!?」
そんな事を考えながらトイレから自分の教室に向かって歩いていたソフィアであるが、突然目の前に一人の女子生徒が現れ道を塞がれた。
「……」
その少女は瞳をキョロキョロとさせながら、挙動不審にオドオドしながらもソフィアを睨みつけているようであった。
「だ、誰ですか!?」
また精霊かもしれない。そんな不安と警戒からソフィアは両腕を上げて構えを取る。もちろん武道の心得などまったく無く、素人丸出しの構えであったが。
「ヒッ……! ぼ、暴力はやめてぇ!」
だがそんなソフィアの構えを見て怖気づいたのか、女子生徒は怖がるように頭を両手で隠す動作をした。
「え、ええ……? な、なんなんですかあなた……」
ソフィアは拍子抜けてしまう。関わってきたのは向こうからなのに、相手が降参してきた。
「こ、怖いよぉ……」
「……」
小動物のように恐怖で身体を震わせている女子生徒。なぜかこっちが悪者のような気がしてくる。
「えーっと……。セイレイさんですか?」
「!! ち、違うよぉ! わ、私は人間だよぉ」
「そうですか……。……って、ん?」
ソフィアはふと疑問に思った。なぜこの女子生徒は精霊かと聞かれて即座に人間と答えたのだろうか。普通の人間だったら精霊のことなんて知らないはずなのに。
「う、ウソですね! あなた、本当はセイレイさんなんでしょ!」
「ち、違うよぉ……。本当に人間でぇ────」
「普通の人間ならセイレイさんの話とかされても意味がわからないはずです! なのにセイレイさんじゃないって言ったってことは……!!」
「そ、それを言うならあなただってぇ……。精霊のこと知ってるみたいだしぃ……」
「そ、それは当然ですよ! なんせ私は黒川君の新しいお友達で、黒川君の秘密も知ってるんですから!」
「黒川君の新しいお友達……? ……や、やっぱりあなた、ソフィア・ヴェジネさんでしょぉ……!」
「そうです、私がソフィア・ヴェジネです! なにか文句がありますか!?」
ソフィアはきめ顔でそう名乗った。腰に手を当てて、堂々としている。
「そういうあなたは誰なんですか! まずは自分から名乗るのがジャパニーズレイギですよ!」
「わ、私は本田小鳥! あなたの敵になるかもしれない人だよ!」
相変わらず女子生徒はオドオドしているが、そうハッキリと言い切った。
「て、敵って……。……あれ? ホンダコトリ……? ……ああっ!」
どこかで聞いたことがある名前だと思って考え込んだソフィアであったが、すぐに昨日の会話を思い出した。
◇
塔音学園裏庭のベンチにて。
「ご、ごめんなさい……早とちりしちゃって……」
「いやいや~。気にしないでくださいよ~」
ソフィアと本田小鳥と名乗った女子生徒は並んでベンチに座っていた。ソフィアの方は明るく対応しているが、女子生徒の方はどこか申し訳なさそうにしている。
「私のクラスの子からカービー君と……、正確にはカービー君達とだったけど……。凄い仲が良い転校生が来たって聞いたから、つい……」
「私は気にしてませんって~。……それよりも……」
ソフィアは目を輝かせながら女子生徒────小鳥に迫った。
「カービーさんの彼女さんって本当ですか!?」
「えぇっ!?」
小鳥は顔を真っ赤にして両手をブンブンと振った。
「ち、ち、違うって! そ、そんなんじゃないからぁ……」
「でもでも! さっきの反応は明らかに嫉妬からですよね!? 誤魔化さないでくださいよ~」
やはり思春期の女子として恋バナは興味惹かれるのか、ソフィアは否定する小鳥を無視してさらに問い詰める。
「ほ、本当に付き合ってないの!」
「ええー。そんなまさか~。長合さんや須藤さんも彼女だって言ってましたよ~」
自分の望む答えではなかったからか、ソフィアは不満そうに唇を尖らせる。
「二人がそんなことを……!? も、もうっ!」
「付きあってないとすると……。……ああっ! わかりました! 本田さんがカービーさんのこと好きなんですね!!」
「そ、ソフィアちゃん!? こ、声が大きいよ……!」
小鳥は周りに人がいないかキョロキョロと見回しながら、慌ててソフィアの口を手のひらで塞ぐ。
「モガモガ……。す、すいません。でもでも! そうなんですよね!?」
ソフィアは先ほどから若干声のボリュームを落として小鳥に詰め寄る。
「そ、それは……まあ、その……。……う、うん」
小鳥は恥ずかしさで再び顔が真っ赤になっていた。
「はぁ~! いいですねいいですね! 甘酸っぱい青春じゃないですか~!」
ソフィアは興奮で鼻息が荒くなっていた。またしても自分の知らない世界を知ることが出来そうだった。
「それでカービーさんと仲良くしていた私に嫉妬してさっきみたいに『ケンカヲウッテ』きたんですね!」
「ま、まあ……」
「いいじゃないですか~。その『コイバナ』! もっと詳しく聞かせてくださいよ~」
「ええっ!? と、特に話すことはないよぉ……」
「ありますって! どうして好きになったのかー、とか、いつから好きなのかー、とか! 私、興味あります!」
「え、え、え、えぇっと……」
完全にソフィアの勢いに押されている小鳥は目をグルグル回しながら混乱していた。
「も、もうお昼休み終わっちゃうから、また今度でーーー!」
いきなり立ち上がった小鳥はそう言い残すとダッシュで校舎の中に入って行った。その後ろ姿をソフィアがポカーンと眺めていた。
「い、いきなりグイグイ行きすぎましたかね……。なんか恥ずかしがりやさんみたいでしたし。……また会えるといいんですけど」
そう言えば精霊のことを知っていそうな事について聞き忘れたなとソフィアは考えていた。
(まああの四人の知り合いならまた近いうちに話す機会もありますよね)
自分も教室に戻ろうかとソフィアがベンチから立ち上がったそのとき。
「いや~。見事なダッシュだったぜ~」
「!?」
突然、背後からそんな声が聞こえてきて、ソフィアは驚いて振り返る。
「だ、誰ですか……!?」
そこには知らない女子生徒が立っていた。
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