11

「小型のもあるのよ?」

ネスが「ほら」と言いながら持っていたポーチから十センチほどの正方形の物体を取り出した。

「一般の精霊は持てないんだけどね。それに、大型の異世界渡航機と違って衡神力強補地点にしか飛べないの」

「その衡神力ナントカってのは俺らのと一緒じゃねえか」

「……そうっすね」

なぜか雫がいじけたように唇を尖らせる。

「なんですかなんですか、そのコウシンリョクナントカっていうのは!」

ソフィアがいつも通り目を輝かせながらネスに尋ねる。説明が難しいのか、「ええっと……」と困ったような表情になる。

「ほらほらソフィアちゃん。帰ってから教えてあげるからさ。……ネスさん、ちゃんと返してもらえるんですよねん?」

「ええ、安心して! ちゃんと『トカメテロ』まで送るから。……それで座標はどうしましょうか?」

「そんな細かいとこまで指定できるんですか?」

勝平は驚いた様子でネスを見た。

「ええ、できるわ。と言っても場所によっては限界があるけどね。 ……それで転送場所は……、雫君の家でいいかしら? あの場所なら座標がわかるわ!」

そう言うとネスはポーチから一枚の紙きれを取り出した。雫の家の位置が書いてあるのだろう。

「おい聞いたか雫。俺らの異世界渡航機みたいな超アバウトな移動じゃねえみたいじゃねぇか」

「……それは大型だからって言ってただろう。オレだって造ろうと思えばそれくらい……」

「カービー、ストップストップ。大将がいじけちゃってるから。ほらソフィアちゃんも知らない単語聞いたからって目を回して混乱しないの」

「ハイぃぃ……」

普段ふざけているが、こういう重要なときには皆をまとめることが出来るのが長合ケインという男なのであった。

「本当に面白いわねあなた達」

そんな雫たちの様子をみてネスがクスクスと笑っている。

「さあ、準備出来たわ。この台の中央に立って」

いつの間にか操作が終わっていたのか、目の前の巨大な機械が起動する音が聞こえる。

「やっと帰れるのか。……何だったんだろうな今日は」

「知らねぇよ。俺らは巻き込まれただけだっつーの」

「でもなんか色んな『初めて』に会えてサイコーな日でした!!」

「あはは……ヴェジネさんはそうだろうね」

「ああっ! もっとネスさんとお話していたかったのにッ!」

各々、余計な一言を言いながら台の上に乗る。全員が乗ったのを確認するとネスが隣接しているモニターを操作する。

「それじゃあ皆、また会いましょうね! ……それといまさらなんだけどごめんなさいね。こんな事になっちゃって」

「……別にアンタが決めたわけでもないんだろ? あの大統領サマに謝ってもらうのならともかく、アンタが謝る必要はないよ」

雫がそっぽを向きながらそう答える。

「……そう。ありがとうね。……それじゃあまたね!」

ネスが少し安心したような笑みを見せると、何かのボタンを押した。すると雫たちは光の球体に包まれた。その直後、光の球体がはじけ飛んだと思うと雫たちの姿はどこにもなくなっていた。

「……いい子たちね、みんな」

一人になったネスはボソッとそんな事を呟いた。

 ◇

「お前ら馴染み過ぎじゃない?」

黒川家のリビングで食卓に着いてカレーを食べているソフィア、勝平、ケイン、カービーを見ながら雫が呆れたようにそう言った。

「なによ、大将。夕飯ごちそうになるのなんてよくある事じゃん」

「そうそう。なにいまさら文句言ってやがる」

「私は初めてですよ! このカレー美味しいですね! ……あっ、ルーのおかわりください!」

キッチンに立っているマーベルに向かって白米だけ残った皿を突き出すソフィア。マーベルも何かに呆れたように首を振ってソフィアから皿を受け取る。

「いや、現状のこともあるけど……。そうじゃなくて神霊世界のでのことだよ。拉致られて脅迫まがいのこともされて、挙句に軍人になれって言われてなんであそこまで普段通りになれるんだよ」

「脅迫されたのはオメェだけじゃねーか」

「まあそうだけど……。立場はお前らも一緒だろ? なのにあんな……。精霊とも仲良さそうにして……」

「雫君だって異世界渡航機の話のときは活き活きとしてたじゃない」

「ウッ……!? そ、それはまあ置いといてだな……」

そこを言われるとイタイのか、雫が目を逸らす。

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