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「ん? どうしたのソフィアちゃん?」

ネスがソフィアの方に振り返る。

「この世界……。神霊世界でしたっけ? ここに来てから結構な数のセイレイさんに会ったんですけど、一度も男性を見てない気がするんですが……」

そう言いながらソフィアはすれ違うラグビーボール型の乗り物をキョロキョロと見る。ソフィアの言う通り、そこに乗っているのは女性だけであった。

「あれ? そこら辺の説明はされてないの?」

ネスは雫の顔を見る。すると雫はプイッと顔を背ける。

「……これ以上関わらせる気はなかったからな。説明する必要は無いと思って」

「えぇ~。まだ教えてもらってないことがあるんだったら教えてくださいよ~」

ソフィアは雫の肩を掴むと前後に揺さぶった。雫はうっとおしそうな表情でソレを受け入れていた。

「別にもう今なら教えてもいいわよね?」

「……どうぞお好きに。今日はもう思考停止することに決めたから」

雫は目を瞑ってソフィアのグラグラ攻撃が終わるのを待っていた。

「それじゃあソフィアちゃん。教えてあげるわね」

「わーい、ネスさん優しーい! ……黒川君と違って!」

ソフィアは雫から手を離してネスの方に向き直る。揺らされている最中に急に手を離された雫は背中と頭を座席に打ち付けてしまい、「グエッ!」と悲鳴をあげた。

小悪魔的な笑顔で嫌味を言うソフィアを見て、ネスが苦笑いをする。

「ソフィアちゃん、実は精霊って女性しかいないのよ」

「えっ!? そうなんですか!?」

ソフィアが驚いたようにネスを見る。

「……まあそれも昔のことなんだけどね」

「昔のこと、って……。今は違うんですか?」

「あなた達の世界で人類が生まれるずっと前の段階では神霊世界の精霊は女性しかいなかったんだけどね。その後、突然男性の精霊も現れるようになって、ここ数百年の間に激増したの」

「ま、マーベルさんからセイレイさんは古くからいたって聞きましたけど、そんなに前からいたんですか……」

「フフッ、そうよ。神霊世界の歴史の勉強なんてしたら、一生を使っても百分の一も調べられないくらいの量よ」

ネスが冗談なのか本当なのかわからないことを言った。

「と、とんでもないですね……。……あれ? でも激増したって言ってましたけど、それで男性のセイレイを見かけないのは……?」

「……まあ、激増したって言っても、そもそも女性の絶対数が多いのよ。毎日出歩いてて一、二か月に一回男性を見れば多い方かしら?」

「ど、どれだけ多いんですか……」

ソフィアが口をあんぐりと開けている。

「なるほどな。それで乗り物から降りた後に俺らを見て精霊共がざわついてたのか」

カービーが納得がいったような表情になる。

「ええ。一人の男性を見かけるのもそれぐらいの確率なんですもの。四人も固まっているところを見るなんて一生に一回あるかないかの確率じゃないかしら? それぐらい珍しいのよ」

「……ってことはこの神霊世界で暮らせばオレっち、ハーレムを作り放題じゃん!!」

ケインが目を輝かせながらそう言った。

「そもそもケイン君、モテないとしょうがないじゃない」

「ヒドッ!! ネスさん、オレっちって魅力的だよね? ね?」

「そうね……。興味持つ子もいるんじゃないかしら? ……男性の珍しさ的に」

ネスがボソッと最後に付け足した言葉はケインには聞こえていなかった。

「……あれ? そもそも男の人がいないってことはセイレイさんってどうやって────」

ソフィアが何か言いかけたところで雫たちの乗っている乗り物がいきなり停止した。急停止にも関わらず。乗り物内部は揺れることがなかった。

「さあみんな、着いたわ!」

ネスは座席から立ち上がると扉に近づき手をかざす。するとウィィィンという音と共に乗り物の扉が開く。

「さっ、降りて降りて」

乗車するときと同じように、一足先に降りたネスが手招きする。それにつられるように雫たちは乗り物から降車する。

「うわぁ……。大きな扉だぁ」

乗り物はとある四メートル近い巨大な扉の前に到着した。扉の見た目はSF映画に出てきそうな重厚感のある金属製の扉であった。

「これがコッチの異世界渡航機なのか?」

雫がネスに問う。

「違うわ。本体はこの中よ。今開けるわね」

ネスが扉の前に立つと。エレベーターのように扉が左右に開いた。その部屋の中には────

「な、なんですかこの転送装置みたいなの……」

「オレっち、この間の金ローでやってたSF映画で見たよこんなん」

部屋には円形のステージのようなものが中央に設置してあった。その円を取り囲むように動物の爪のような尖ったオブジェクトが八つ、並んでいた。さながら蜘蛛をひっくり返したような見た目であった。

「へぇ~。神霊世界の異世界渡航機ってこんなにデカいんだな。オレらのみたいにもっと小型にすればいいのに」

自分たちの技術の方が優れていると考えているのか、ニヤニヤしながら雫がそう言った。

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