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 ◇

「わぁー……。なんですか、ここ……」

ソフィアがあっけにとられたように目をパチクリとさせている。

「ひ、広い……」

勝平も少しビクついたように反応した。

それもそのはず、目の前には見たことも無いような広大な景色が広がっていたからである。

「駅……? ちげぇな。もっとなんつーか、こう────」

「空港、的な?」

「それだそれ」

今まで警戒心を解いていなかったカービーすらその景色に視線を奪われていた。目の前の景色を例える言葉が見つからなかったようであるが、ケインが的確な言葉でセリフを引き継いだ。

「フフフ。どう? 凄いでしょう?」

先頭に立っていたネスが自慢げに両手を広げた。

「ここが世界間交通移動センター! 精霊たちが他の世界に行くときに利用する場所よ!」

「ケインとカービーの言った通り、駅とか空港みたいな建物って認識でいいのか?」

「電車の駅も飛行機の空港も別にあるけど、認識としては間違ってないわ! さあさあ皆、私に付いてきて!」

そう言うとネスは先陣を切って歩き出した。五人は慌ててその後を付いて行く。

現在、雫たちがいるのは神霊世界で世界間交通移動センターと呼ばれる建物である。見た目は少し近未来的な空港を想像すればよいか。ただし、その広さは尋常ではなく、おそらく一階にいると思われる雫たちであるが入り口以外の建物の端がまったく見えなかった。巨大すぎて何階建てかすらわからない。建物内を行きかう精霊の数もかなり多かった。

「まずはこれに乗ってね」

そう言ってネスが指差した場所にはラグビーボールのような形をした上半分が透明な乗り物がいくつも整列されていた。大きさは四、五メートルほどで中には座席のようなものが設置されていた。

「なんじゃらほい……」

「面白い形ですねー」

ケインとソフィアがそろって首を傾げている。

「ウフフ。さあ入って入って」

不思議がっている五人を見るのが面白いのか、微笑みながらネスがラグビーボール型の乗り物に手をかざす。すると目の前の部分が開き、中に入れるようになった。

「これで異世界渡航するんですか?」

「違うわ。これはあくまでもこの建物内の移動用の乗り物よ。この建物は広すぎるから歩いて移動してたら日が暮れちゃうからね」

勝平からの質問に答えながらネスが一番に乗り込む。中に入ってから雫たちを手招きして乗るように促す。

「……どうすんだ雫」

「……今日はもう考えるの止めだ。大人しく従おう」

そう言って雫はその乗り物に乗り込んだ。それを見て残りの四人も顔を見合わせてから中に入って行く。

見た目以上に中は広い空間になっていた。

「みんな乗ったわね。それじゃあ……」

ネスは確認を取ると乗り物内部の前方に設置されているホログラムで出来たモニターを操作する。すると乗り物はウィィィンという音を立てて動き出した。

「わわわっ! 浮いてますよこれ!」

「びっくりするくらい揺れが無いねぇ」

乗り物は一切揺れることなく静かに浮かび上がった。そのまま高さ約二十メートル、天井付近にまで到達する。

「お、おい! どんだけ上がんだよ!」

高いところが苦手なのか、カービーが座席にしがみつきながらそう言った。

「ここまでよ。それじゃあ移動開始するわね」

再びネスがモニターを操作すると乗り物は高速で前方に向かって進みだした。かなりのスピードが出ているはずだが、揺れが一切ない。

「す、凄い……。映画で見た未来の空飛ぶ車みたい……」

勝平が感嘆してそんな独り言を言う。

「……こんなに高い技術を持ってるのか、神霊世界は」

雫もショックを受けているようであった。

この建物に入った時までは気が付かなかったが、よく見ると同じようにラグビーボール型の乗り物が何台も空中を飛んでいた。

「これ、操縦しないで大丈夫なのん? 他のとぶつかりそうなんですけど……」

「ええ、自動操縦よ! 目的地まで自動で行ってくれるわ! もちろん、ぶつからないようになってるから安心してね!」

少し心配そうにケインが尋ねる。するとユノが自慢げに腰に手を当ててそう言った。もう慣れっこなのか目の前をいきなり他の乗り物が通っても驚いた様子を見せない。

「あのー。いまさらな事聞いてもいいですか?」

ソフィアがおずおずと手を挙げた。

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