5

「はいどうぞ。紅茶でよかった?」

「……紅茶飲めない」

ネスから渡されたティーカップを受け取らず、雫はそっぽを向きながらぶっきらぼうにそう言った。

「あらそう? ならコーヒーでいい?」

「……」

雫は無言で頷いた。相変わらずネスとは目を合わせようとしない。

「なによ。せっかくあなたの世界の最高級の紅茶を用意したのに。ネス、それ捨てるんだったらもったいないから私が飲むわ」

「じゃあここに置いておくわね」

そう言ってネスはユノの前のテーブルにティーカップを置いた。自分の分と合わして二つのティーカップが並んでいた。

「……なんだこの状況」

雫は頬杖をつきながらチラッとユノとネスの二人を見た。先ほどまでの緊迫した雰囲気はどこへやら、和やかな雰囲気が漂っていた。

つい数分前の一件で抵抗するのを諦めて投降した雫。てっきり拘束でもされるものだと思ったらソファに座るように促された。雫が大人しくソファに座ると、満足したように鼻を鳴らし、ユノがテーブルを挟んで対面の位置に腰かけた。そして嫌いな紅茶を出され現在にいたる。

「コーヒーを持って来るまで話しを待つ理由はないわね。単刀直入に聞くけど、今自分の置かれている状況がわかってる?」

ユノが紅茶に手を伸ばしながらそう雫に聞いた。

「そうだな。差し当たってここは神霊世界のどっかかな」

雫がソファの背もたれに腕を回してぶっきらぼうに言った。

「まあさすがに自分のいる場所はわかるわよね」

「ああ。オレの心臓神機が今までにないような動きをしてるからな。あきらかに今までにない量の『衡神力』がそこらへんに漂ってる」

「凄いわね。そんな事もその神機でわかるの?」

ユノは少し驚いたようだった。

「半分直感だがな。オレとコイツは長い付き合いだから妙な感が働く」

「で」と雫が鋭い目つきでユノを見る。

「オレのコイツを神具じゃなく神機と言ってるアンタはクロックナンバーの関係者なんだろ?」

「……鋭いじゃない。正解よ」

特に隠す予定も無かったのか、言い当てられてもユノはニヤリと笑った。すると今度は雫の方が舌打ちをした。

「あのおしゃべりポニーテールめ……」

「あら、随分仲が良さそうじゃない。クロックナンバーには命を狙われてるんじゃないの?」

「他人事みたいに言いやがって……。どうせオレを殺すように命令してんのはアンタなんだろ」

雫がユノを睨みつける。

「そうねぇ。『殺せ』とは言ってないんだけども。どっかで命令が違っちゃったのかしら?」

ユノは呑気そうにそう言った。ワザと雫を怒らせるように言っているのではないか。そんな気さえしてくる。

「……シルバーの奴は部下からは隊長って呼ばれてたが、自分のことは副隊長だと言っていた。するってぇとアンタがそのボスなんだろ? まさか精霊王がボスだとは思わなかったが」

「残念。私はクロックナンバーの隊長でもないし、部隊員でもないわ。……それじゃあ私は何なんでしょうね?」

ユノは煽るように肩をすくめながらそう言った。だんだん雫はイライラしてきた。

「知るかよ。神霊世界ことなんてろくに知らないし、クロックナンバー自体がどんな組織化もよくわかってない。……そろそろ教えてくれよ精霊王様?」

「つまらないわね。クイズでもやろうと思ってたのに」

ユノがつまらなそうにため息をつく。それと同時に足を組む。

「私は、そうね……。あなたの世界で言うとこの国王……。首相と言った方がいいのかしら」

「はあ?」

雫は思わず身を乗り出して素っ頓狂な声をあげる。

「なんだなんだ? つまりアンタは神霊世界の一番偉い人ってことか?」

「公にはそういうことになってるわね」

「アッハッハッハ!!」

さっきまでの不機嫌な雰囲気はどこへやら、雫は突然大笑いをし始めた。ユノが怪訝な表情になる。

「なによ。なんか面白い事言ったかしら?」

「面白い冗談だ! 神霊世界のトップがただのそこらへんにいるような人間に会ったっていうのかよ?」

「そうよ。……まあそこらへんにいる人間ではないけどね」

「ハンッ。その話が本当だとして、なんでわざわざオレに会ったんだ? それも生きたままで」

するとユノの表情が真面目な顔つきになった。

「……黒川雫。あなたは自分の存在がどういうものかわかっていない」

「な、何がだよ」

グイッと顔を近づけてきたユノに驚いて雫が体を引く。

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