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「クソッ……。神機も持ってないし……!」
「てゆーか、どちら様!?」
改めて黒い人型を観察してみると、それは黒い特殊スーツを身に纏った人であるようだった。顔もヘルメットで覆われており、さながら軍人か特殊部隊のような外見をしている。
「相手さん、武器持ってないみたいだし……。やっちゃいます?」
「それしかねえよ!」
カービーが撃たれた段階で確実に敵意を持たれているのは理解できた。雫の「行くぞ!!」の掛け声で雫とケインがそれぞれ一番近い特殊スーツに殴りかかる。
「シャアッ!」
雫の右こぶしを振りかぶった大振りな初撃はやすやすと回避されてしまった。だがそれはわかっていたのか、その勢いを殺さずに回転し左拳で裏拳を放つ。
「……」
特殊スーツは慌てた様子もなくその拳を顔面に当たる前にキャッチする。
「この……! 離せよ!」
雫は左手を掴まれたまま右足で相手の胴に蹴りを打ち込む。多少ノックバックはしたものの、大したダメージにはなっていないようであった。
「クソっ! ……ってうぉ!?」
雫が蹴った足を引っ込めるより先に、今度は特殊スーツが動き出した。雫の腕を掴んだまま背中を見せる。
そしてそのまま一本背負いのような形で雫を投げ飛ばした。百八十㎝はある雫の身体が宙を舞った。そしてもちろんそのまま────
「────ゲッ……ホ」
雫の身体は堅い地面に叩きつけられた。あまりの衝撃と痛さで呼吸が出来なくなる。
「これ以上抵抗しなければ危害は加えないわ」
初めて特殊スーツが言葉を話した。ヘルメットのスピーカー越しに聞こえたその声は女性であるようだった。
「も、もうすでに十分なダメージなんだけど……」
まだダメージは残っているものの、立ち直ったのか雫が軽口を叩く。だが腕は背中に回され、身体を地面に抑えつけられてしまっている。
「大将、やられるの早すぎぃ……」
そうは言うがケインの方も雫と同じように取り押さえられていた。特殊スーツ二人がかりで押さえられているところを見ると、雫よりは善戦したのかもしれない。
「し、雫君……。こっちも降参でいいかな……」
勝平とカービーの方に目を向けると三人ほどの特殊スーツがベンチを取り囲んでいた。二人の圧倒されぶりを見たせいか、勝平は抵抗することなく両手を上げて降参のポーズを取っている。
「なんなんだよアンタらは……!」
「……クロカワシズクで間違いないわね。君を連行させてもらうわ」
雫の問いかけには答えず、特殊スーツがそう言った。雫の両手を後ろに回し、手錠をかけた。
「君たちにも付いてきてもらう」
ケインを拘束している特殊スーツの一人がそう言うと、雫と同じように手錠をかけた。
「おい! 用があんのはオレだろ! そいつらは関係ない! 離せよ!」
「……それは出来ない。そういう命令だ」
なぜかどこか申し訳なさそうに特殊スーツがそう言った。
「し、雫。僕らなら大丈夫だって……。い、いきなり殺されてるわけじゃないしさ……」
勝平はビクビクしながら立ち上がると、素直に両手を差し出した。大人しく手錠をされる。
「……」
相変わらず気を失っているカービーは特殊スーツが肩に担いだ。
「よし、ターゲット四人とプラスαを確保。これより『神霊世界』に帰還する」
「「「し、神霊世界!?」」」
特殊スーツが言った言葉に雫、ケイン、勝平が反応する。抵抗を諦めていた三人であるが、再び暴れ始める。
「ちょ! 聞いてないって! オレッちたち、精霊に誘拐されるじゃん!」
「ひ、ひえぇ……。一回行ってみたいとは言ったことあるけど、こんな形は嫌だよぉ……」
「ふっざけんな! お前ら、クロックナンバーの仲間だろ! 人間を神霊世界に連れてくのはアウトなことはオレでも知ってんだよ!」
三人が暴れ出す。「大人しくしろ!」と言われるが収まる気配はない。
「……副隊長、どうしますか?」
「眠らせなさい。異世界渡航の最中に騒がれると面倒よ」
「了解」
特殊スーツは腰に付いているポーチから何かボールペンのようなものを取り出すと、雫の首筋に押し当てた。首に当たっている方とは逆側を押し込むとプシュッという音が鳴った。
「な……に……を……」
雫は一瞬で身体の力が抜けるのを感じた。足に力が入らなくなり、倒れ込む。
(……あれ。そう言えばさっきコイツ等、プラスαって……)
薄れていく意識の中で雫は最後にそんな事を考えていた。眼を閉じる最後の瞬間に見た景色は同じように何かを注射されている勝平とケインの姿であった。
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