邂逅、神霊世界

1

「いや~、まさかミッチャンが一つ上の先輩だったとは」

ソフィアがタハハと何かを誤魔化すように笑った。

「てっきり昔から知ってるもんだと思ってたよ」

雫が弁当の白米を箸で口元に運ぶ。

現在昼休み、塔音学園の2年B組の教室の一角にて雫、カービー、ケイン、勝平、ソフィアの五人は集まっていた。

雫とソフィアの机を中心に、おそらく学食にでも行っていていない生徒の椅子を借りる形で他の三人が座っていた。

「そもそも俺らが敬語だったのを聞いて変に思えよ」

カービーが割り箸を割りながらそう言った。

「そうそう。カービーが敬語使うなんて滅多にないんだから不思議に思わなきゃ」

ケインが総菜パンの包装袋を乱雑に破りながら言った。

「あん? 俺だって年上は敬ってるンだよ」

「カービー君、基本先輩に対してもタメ口じゃない……」

紙パックの牛乳を飲みながら勝平がそう付け加えた。

「俺は俺よりつえぇ奴にしか敬語は使わねぇ」

カービーはそっぽを向いた。そのまま売店で買ってきた牛丼を口の中に掻き込み始める。

「へえ~。じゃあやっぱりミッチャンって強いんですねぇ」

ソフィアがのんびりとそう言った。手元には菓子パンといちご牛乳のパックが置かれていた。

「ソフィアさん。『強い』ってなんの話してるの?」

「えっ? ……あっ」

ソフィアは一瞬マヌケな表情になった後、慌てたような表情に変わった。

「いや、ほら! ミッチャン、黒川君たちと仲良さそうでしたし! あんな刀も持ってたから、てっきり戦うものだと!」

「ソフィアちゃんの表情はコロコロと変わって可愛いねぇ」

ケインは遠回しにそう言ったが、要は表情に出ているということである。

雫はジトーッとソフィアを睨む。

「ソフィアさん……。大佐からなんか話聞いたでしょ?」

「な、ナンノコトヤラ……?」

ソフィアは吹けもしない口笛を吹いて誤魔化した。

「あなた、そのパターンしかないのか……」

当たり前だが誤魔化しきれなかった。雫は呆れた様子でソフィアを見る。

「大佐からなに聞いたの?」

「だ、ダメです! 言えません! 女同士の約束です!」

ソフィアは腕を交差させて大きなバツ印を作った。

「まあなんとなく予想はついてるけど」

「ヨソウッテナンノコトデスカ……?」

「ホント、白々しいくらいカタコトになんのな」

ソフィアの方を向かずにカービーがボソッと言った。

「……あれだよね。大佐に口止めしなかった僕たちにも責任あるよね……」

「そ、そうですよ! ミッチャンにきちんと言っておかなかった皆さんが悪いんですよ!」

勝平が入れてくれたフォローにここぞとばかりに乗っかるソフィア。

「急に責任転嫁し始めたぞコイツ」

「ソフィアちゃんは発言がコロコロ変わって可愛いねぇ」

ケインは相変わらずであった。もしかするとさっきの発言も意図していなかったものなのかもしれない。

「……真面目な話。大佐何言ってた? ……例えば俺のこととかなんか聞いた?」

雫が少しまじめなトーンでソフィアに尋ねる。

「いや、黒川君のことについては特に……。ミッチャンのこととか、精霊さんの詳しいこととか、なんで『大佐』って呼ばれてるのとか……。です……」

雫に怒られていると感じたのか、ソフィアは少しシュンとなった。

ソフィアからそう聞いた雫は安心したように表情をやわらげた。

「なんだそんなことか。……ゴメンねソフィアさん。あまりオレ個人の情報は話してもらいたくなくてさ」

「それってこれ以上私が関わってこないようにするためですか?」

「それもあるけどね。……ほら、個人情報だから本人がいないところで話してもらいたくない、みたいな」

「そ、そうですよね。本当に黒川君のことについてはなにも聞いてないので大丈夫です」

それを聞いてソフィアも少し元気を取り戻した様子であった。

そこでソフィアが「あっ」と何かを思い出した。

「そう言えば、結局黒川君の心臓がそうなっている理由を聞いてませんでした!」

「うわ、思い出しちゃったよ。失敗したなぁ」

「教えてくださいよ、黒川君! 昨日は中途半端に終わっちゃったじゃないですか!」

ソフィアは完全に勢いを取り戻したのか、昨日と同じ目を輝かせて雫に詰め寄る。

「ち、近いってソフィアさん! こ、この話はまた今度! 今はダメ!」

ソフィアに顔を近づけられた雫が照れて顔をそむける。ダメと言われたソフィアは唇を尖らせてブーたれる。

「えーー。本人からならいいんじゃないんですかぁー?」

「いいとは言ってないよ……。ところでさ」

「はい」

「ソフィアさん、『精霊王』についてはどう思ってる?」

「はい?」

ソフィアは思わず首を傾ける。また聞きなれない単語が出てきた。

「いや、何でもないよ。……カマかけても引っかからないってことは大佐はそこまでは話してなかったのか……」

雫はボソッと独り言のように呟く。

「な、なんですかそのセイレイオウっていうのは!? また新しい情報ですか!?」

「ちょっとトイレに行ってこよっと」

「ちょっと黒川君!」

結局この後五時間目開始まで雫は戻ってこなかった。その間、ソフィアは残された男三人を質問攻めにして午後の授業を受ける体力を根こそぎ奪い去った。

もちろん、得られた情報はなにもなかったが。

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