18

「はい。それがすごく気になってました」

「ウンウン、正直でよろしい。オレが精霊に狙われる理由……、それはね……」

そこまで喋った雫は突然立ち上がり、自分のワイシャツのボタンを外し始めた。

「? 何してるんで────」

「これだよ!」

いきなりワイシャツを脱ぎ捨てた。ソフィアが驚いて目に手を被せて前を見ないようにする。

「い、いきなり何をするんですか! ……って、え?」

指の間からさりげなく雫の上半身を見たソフィアは驚いた声を出す。

雫の心臓があるであろう場所には丸い機械のようなものが埋め込まれており、淡く光を放っていたからである。

「そ、それはいったい……?」

「これこそオレが精霊たちから狙われている原因、『心臓神機』さ」

「心臓……、神機……」

ソフィアがあっけにとられたような表情でソレを見ている。一目見ただけで人知の及ばないものだということがわかった。

そして思わず目を奪われる、あまりにも美しい輝きを放っていた。

「これがいま雫を生かしている要因だよ。つまりその名の通り雫にとっての心臓の役目を持っているんだ」

マーベルが雫の心臓神機を見つめながらそう言った。

「精霊たちはこれを欲しがっているんだよ」

「欲しがっているって……。あげられるものなんですか?」

「まさか! これが無くなったらオレは死んじまうよ!」

雫がとんでもない、というふうにおどけてみせる。

今まで理解できることがほぼ無かったソフィアでも理解した。なんで雫が精霊におそわれるのかを。つまり────

「精霊さんたちは、黒川君を殺してその心臓神機を盗もうとしてるんですか?」

「ピンポーン! 大正解! ソフィアさんに拍手!」

ワーッとケインだけがわざとらしく拍手をした。

「で、でもそれってそんなことまでして手に入れたいものなんですか? 人工心臓だったらこの世界にもありますよ?」

「確かに通常の人工心臓なら神霊世界にも存在している。完璧に心臓の代わりになるほどのレベルの物が。ただ、雫の心臓神機は一つ、とんでもないな機能があるんだ」

「とんでもない、機能、ですか?」

「それは────」

「死んでも生き返れる機能だよ!」

マーベルの言葉を遮ってケインが答えた。さっきから男どもに何度か説明を邪魔されているマーベルは、流石に怒ったのかケインの方を睨む。

「長合ケイン……」

「ご、ゴメーン、マーベルちゃん! 今度ご飯奢るから許して!」

「いらない」

マーベルは拗ねてそっぽを向いた。

「……え。生き返れる機能、って……」

ソフィアは目をパチクリとしている。

「そのままの意味だ。体を真っ二つにされても元通りにくっつくし、頭部を吹き飛ばされても再び頭部が再生する。そして何事も無かったかのように生き返る」

「……えー」

やっとここまで話についていけてたと思った矢先、いきなりぶっ飛んだ話をされてソフィアはその言葉しか言えなかった。

「……あれ? もしかして……」

ソフィアはふと異世界に行った時の雫の言葉を思い出した。


『無事なもんか! 一度『殺され』ちまったよ! それでなんとか逃げ切ったんだ』


まさかあの言葉は比喩表現ではなくそのままの意味だったのか。刀でバッサリ斬られたのだったらあの血だまりも納得できる。ソフィアは軽い眩暈をおぼえた。

「ま、まさかそんなことが……」

「嘘じゃないって。現にさっきソフィアさんの目の前で実演してみせたじゃん」

雫が喉元に何かを突き刺すようなジェスチャーをする。

「さっきって……。……ああ! あれ、マジックじゃなかったんですね!」

ソフィアはカービーが雫の喉にナイフを突き刺す光景を思い出した。常識的に考えればどう考えても死んでいる。

「そうだよ。ただこの機能にも弱点があってね。一日一回しか復活出来ないんだ」

「正確には一度蘇生したらだいたい二十四時間の感覚を空けなくては次の蘇生が出来ない」

マーベルが付け加える。

「えっ、じゃあその間に殺されちゃったらどうなるんですか?」

「今度こそ本当に死ぬ。ジエンド。完、ってね」

雫が両手を合わせて天に召されるようなモーションをする。

「そうなんですか……」

「死んだ人間が生き返る能力の神機なんて神霊世界でも聞いたことがない。まさに不死身に近い肉体を手に入れられる。だから精霊は必死になって雫から奪おうとしているのさ」

「その精霊の猛攻から大将を守ってるのがオレっちたちなわけ!」

ケインがドヤ顔をする。

「でもなんでお三方が……。三人は関係ないただの人間なんですよね?」

「それはソフィアさん、あなたと似たような感じだよ」

「えっ?」

雫が昔を懐かしむような表情を見せる。

「中学生の時にこの馬鹿どもと知り合ってさ。こいつらも偶然オレが襲われてるところを見て好奇心から首を突っ込んできやがってね。そのままズルズルと今日までだよ」

「だってよぉ。超ワクワクしたんだぜ? こんな非日常な体験、他にねぇよ」

カービーが相変わらず寝っ転がりながら言った。

「まあ、乗りかかった船、ってやつだよね」

勝平がクスクスと笑いながら言った。

「そうそう。秘密を知っちゃった以上オレっちたちは一心同体、ってね!」

ケインがウインクをしながら言った。

「まったく……。死ぬかもしれない、危険なことなのにさぁ」

雫が呆れたように、だがどこかしょうがないといったように言う。

「なんか……。いい関係ですね」

ソフィアが微笑んだ。

と、ソフィアはそこであることに気が付いた。

「……ん? そもそもなんで黒川君の心臓がそんなことになってるんですか?」

「えー。そこ聞いちゃうー?」

雫が面倒くさそうに言った。

「いやいや、そこがある意味一番重要なところじゃないですか!」

「ハイハイ……。じゃあ説明するけども。ソフィアさん」

雫が一変して真剣な顔つきになった。

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