19
と、雫が口を開こうとした瞬間
「この私をほっといて、随分楽しそうにしているじゃないか……」
そう言いながら、一人の少女がドアを開けてリビングに入ってきた。
「!?」
ソフィアは思わず驚いて仰け反ってしまう。また知らない人が現れた。セイレイかセイレイじゃないか。それがソフィアにとって今一番大事なことであった。
「「「「大佐(たいさ)!?」」」」
ソフィアと同じく、男子四人も驚いたように少女の方を見た。ソフィアと違っているのはそれが誰かわかっているようであることだった。
「どうしたの大佐? いきなりやってきて。なんか服も汚れてるし」
雫が少女に声をかけながら近づく。
「キミを探してたんだよ、雫君……」
そう言って雫の肩にポンと手を置いた少女。表情はいかにも疲れ切っているようであった。
「……」
ソフィアはその少女をジックリと観察していた。一七〇㎝近い身長に黒髪を豊かなポニーテールにまとめていた。塔音学園の女子制服を着ており、凛々しく整った顔立ちは目を奪われるような美しさがあった。
だがそれ以上に目を奪われるものがあった。それは少女の腰に帯刀してある日本刀である。明らかに制服とマッチしていない。
(黒川君の反応からすると悪いセイレイさんじゃないようですけど……。そもそもセイレイ? それともニンゲンでしょうか……)
ソフィアは警戒を解かずにその少女を注視している。
「あれー? てか大佐って実家に帰ってたんじゃないんですかー?」
ケインがひっくり返りながらそう言った。
「ああ、そうか……。だから君たちは私に連絡を入れなかったのか……。私のミスだな」
雫から手を離すと、少女はソファーの方に向かって歩いていき、空いているスペースに倒れこむように座り込んだ。
「大佐ァ。いつ帰って来てたんすか? 連絡くれりゃあいいのに」
スマホをいじりながらカービーが少女に尋ねる。
「昨日の朝だね。学校にもいたよ。……いやホント、私のミスだな。ちゃんと連絡してれば無駄足になることもなかったのに」
少女は腰の刀を外すと床に置いた。そのまま再びソファーに沈み込むように倒れる。
「お疲れ。……まあ雫はこうして無事だったんだからよかったってことで」
いつのまにかいなくなっていたマーベルがお盆の上に麦茶が入ったグラスを乗せてッキッチンから現れた。少女の近くまで来ると目の前のテーブルにグラスを置く。
「お疲れ、じゃないよまったく! マーベル! 君だって────」
そこまで言って少女は口を紡ぎ、目の前の麦茶を一気に飲み干した。
「────いや、止めよう。元は私が悪いんだ。……おかわりが欲しい」
そう言って少女は空になったグラスをマーベルに向かって突き出す。「わかった」といってそれを受け取ったマーベルは再びキッチンに入っていった。
「大佐もオレのこと探してくれてたの? いや~、悪いねぇ」
雫がまったく申し訳ない雰囲気を出さずにそう言った。それを一瞬ジトッとした目つきで見た少女だが、すぐに目を逸らしてため息をつく。
「まあ、キミが無事ならいいさ……。で」
少女は次にソフィアの方を向いた。目線が合ったソフィアは思わず緊張して体が強張る。
「ソフィア・ヴェジネ君だね?」
「そ、そうですけど……」
またしても名乗ってないのに自分の名前を呼ばれた。いつの間に自分はこんなに有名人になったのだろうか。
「フフフ……。私が誰だかわからないかな?」
「えっ? ど、どこかで会いましたっけ……?」
ソフィアは記憶を探った。だが自分が覚えている限りではこんな美人と会った覚えは一度も無い。
「わからないか。まあ無理もないね。それじゃあ名乗ればわかるかな」
そう言うと少女は立ち上がりソフィアの前まで歩いてきた。
「私の名前は大佐橋美智(おおさはし みち)。……これでわかるかな?」
「……えっ。……もっ、もしかしてミッチャン!?」
ソフィアは今日一番の驚いた表情になった。それを見た少女────、美智は「久しぶり」と言って優しく微笑んだ。
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