15

「あっ、雫君!」

「やっと来やがったか」

雫とソフィアが走り始めて五分ほど経つと、高木が無い少しだけ開けた場所にたどり着いた。そこにはケインたち三人がおり、足元には異世界渡航機が設置されている。

「よっし準備完了! ……ってどうしたの大将、その腕!? なんかソフィアちゃんが持ってるし!」

「いやその、これは……」

ソフィアが返答に困ったように苦笑いをする。どう説明したものか。

「包帯女にやられちまったんだよ! いいから急げ! 時間が無い!」

雫はケインを急かすように足踏みをする。相変わらず切断された箇所からは血が流れている。

「お、おうふ……。……準備出来たよ! 大将、早く!」

ケインがそう言うと足元の異世界渡航機から光の円柱が現れた。ケインは雫を行かせるために手招きをする。

「おう! お先!」

「きゃあ!」

雫がソフィアの手を掴んだまま光の中に飛び込む。

「カービーとケインも、ほら!」

「よし、さっさと行くぞ」

「ケイン君も急いでね!」

カービーと勝平が二人同時に光の中に入っていく。それを見届けてケインは自分も光の円柱の中に入っていく。

「目的地、合ってますよーに!」

ケインが入るとすぐに光の円柱は消えた。それと同時に異世界渡航機も消滅した。

 ◇

「チッ……、逃がしたか……」

数分後、雫たちがいた場所に包帯女がやってきた。手に持った何か機械のような物を見て、憎々し気に呟いた。

「あの世界に戻られるとろくに攻撃ができん。今回はここまでか」

包帯女は空を見上げながらため息をついた。

「二日がかりで追っておいて取り逃がしたことがバレたらシルバーに叱られるな……」

そう言えば、と包帯女はふと何かを思い出したように辺りを見渡した。

「イーリスの奴どこまで行ったんだ……? 心臓神機のアルノードを見つけたときに連絡すればよかったな」

そう言うと包帯女は手に持った機会を操作する。

「……電話に出ない。いったい何をしているんだ? ……またこのうっとおしいジャングルの中で人探しをしなくちゃならんのか」

包帯女はため息をつくと、再びジャングルの中へと姿を消した。

 ◇

先ほどカービーたちが雫と合流した場所から少し離れた場所にて。

ガキンッ、と金属同士がぶつかり合うような音が木々の中に鳴り響いた。木に泊まっていた鳥のような生物が驚いて一斉に飛び立つ。

「あーーもうっ! しつっこいのよ、この女サムライ! 居場所なんて知らないって言ってんでしょうがっ!」

「フフッ……。本当かな? もう少し念入りに尋問したほうがいいと思うんだけど」

再びガキンッ、という音が鳴り響く。今度は連続で。間隔は先ほどよりも短い。

音源の地点には二人の少女がいた。片方は日本刀のような刀を持っており、もう片方は巨大なハンマーを握っていた。

刀を持った少女が刀を振り下ろすとそれに合わせてもう一方の少女がハンマーを勢いよく刀にぶつける。ガキンッという音が鳴り響く。先ほどから聞こえていた音の正体はこれであった。

「この世界に来てからアタシだって見失ってんのよ! わかるわけないでしょ!」

少女がハンマーを横薙ぎに振り回す。刀を持った少女はそれを素早くしゃがんで回避する。

「キミが一人で任務に付くはずはないだろう。……さてはお仲間とはぐれたのかな?」

「うるっさいわね! だったらなによ! ……てか一人で任務に着けないってバカにしてんの!?」

頭に血が上っているのか少女ががむしゃらにハンマーを振り回す。

その行動を予測していたのか、バックステップで少し距離を取った刀を持った少女。不敵に笑うと刀の先端をハンマーの腹の部分めがけて突き出した。

「ぴゃっ……!?」

ハンマーを経由し、手に伝わった衝撃に驚いて声をあげる少女。しかし一瞬後にその手には何も握られていなかった。少女の持っていたハンマーは後方に弾き飛ばされていたからである。

「そうやってすぐにムキになるところが原因だろうね」

「グッ……!!」

刀を持った少女はその鋭利な切っ先をハンマーを持っていた少女の鼻先に突き付けた。追い込まれた少女は目の前の刀を憎々し気に睨んでいる。

「ま、キミをどうこうする気はないよ。私は雫君を探しにきただけだからね。居場所を知らない、小さい小さい少女をイジメるのは私の趣味じゃないしね」

そう言うと刀を持った少女は腰に携えた鞘に刀を納刀した。

「クソッ……! 覚えてなさい!! 必ず復讐してやる!」

そう吐き捨てるよう叫ぶと────、言われた通り背の低い少女は一目散に逃げだした。もちろん落ちている自分のハンマーを拾って。

「やれやれ……。彼女の相手は疲れるね」

そう呟くと少女は両手首をグルグルと回し始めた。戦いの最中は平気なフリをしていたが、少女のハンマーの一撃一撃は重く、受け止めるのに手首にダメージを負っていた。

「……さて。また雫君を探しに行くか。出来れば他の『クロックナンバー』とは会いたくないんだけどね」

少女は腰の刀に手を掛けながら、ハンマー少女が逃げて行った方とは逆方向に歩き出した。

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