14
「あれ? まだお友達がいるんですか?」
ソフィアただ一人だけは何が起きているのかわからないといった感じであった。
「ヤベェぞ! 逃げろ!!」
カービーが大声で叫ぶ。その声と同時に雫、ケイン、勝平が同時に動き出す。
「お前ら! とりあえずバラバラに逃げろ! 後で落ち合うぞ!」
「大将、ソフィアちゃんはどうすんの!?」
「オレが連れてく! お前らは逃げきったら異世界渡航機を開いとけ!」
そう言って雫はソフィアの腕を引っ張った。
「い、痛いですって! どうしたんですか!?」
「アイツらから聞いてるかわかんないけど、オレを殺そうとしてる奴がきたんだよ!」
「ええっ!?」
雫がソフィアの手を引っ張りながら駆け出した。いきなり走り出されたためか、ソフィアの足元はふらついており、上手く走れていない。ケイン、カービー、勝平の三人はもう姿が見えなくなっていた。
「それは私のことかな?」
「ッ!!」
いきなり雫とソフィアの前に木の上から黒い塊が落ちてきて、二人の進路を塞ぐ。
「よお。逃げ切ったつもりにでもなっていたのか、アルノード? 随分まったりとしていたじゃないか」
「へっ。休憩してただけだよ。どっかの誰かさんがしつこいからな」
雫の頬を汗がツーッと伝う。
落ちてきたモノはヒトであるようだった。全身を隠すようににボロボロの布を纏っており、ときおり見える内側には包帯が見えた。どうやら素肌に包帯を巻きつけているようである。
「いい加減にしてくんないかな、包帯女さんよ」
「おまえが大人しく死んでくれればいいだけなんだけどな。……ん? そっちの女は……」
包帯女と呼ばれた人物が雫の後ろに隠れるように立っていたソフィアの存在に気付く。
「なんだおまえは? そのニンゲンの新しいお仲間か?」
「いや違う。偶然異世界渡りに巻き込まれた一般人さ。この人は俺らとは関係ない」
「やかましい。私はその女に聞いているんだ。おまえは黙っていろ」
包帯女が鋭い眼光で雫を睨みつける。
「え、ええと……」
いきなり話の中心にされたソフィアが戸惑う。この状況がすでにわけがわからないのに自分を指名されても困る。
「私は黒川君のお友達というか……」
「バカッ! せっかく誤魔化したんだから乗れよ!」
包帯女がフッと鼻で笑う。
「意思の疎通ができていないようだな。……まあいい」
そう言うと包帯女は背中から一メートルはゆうに超える刀を取り出した。
「そのアルノード以外は積極的に殺す気はない。……私の前に立つというなら切り殺すがな」
「……へっ?」
いきなり刃物を突き付けられてソフィアは素っ頓狂な声を出してしまう。この刀は本物なのだろうか、何故かそんなことを考えていた。
「やめろ! この人は本当に関係ない!」
ソフィアを庇うように雫が前に立つ。その様子を見て包帯女がクックックッと押し殺したように笑った。
「手を出さなければ危害は加えないと言っているんだ。私はハナッからおまえだけを狙っている。それなのに……、ククッ……。自分が盾になるとはな」
包帯女は持っている刀を振りかぶった。
「────死ぬといい」
そのまま勢いよく刀を振り下ろした。
「クソッ!」
雫はガードするように振り下ろされた刃を左腕で受け止める。が、勢いが止まるわけもなくそのまま雫の左腕は肘辺りから切断された。鮮血が辺りに飛び散る。
「キ────キャーーーーーー!!!!」
突然目の前で起こった惨劇にソフィアは絶叫する。それでも恐怖で尻もちをつかなかったのは今日これまでに起きた不思議な事のせいで精神的に昂っていたからであろうか。
「なめんなよ!」
左腕を切断された雫。顔は痛みからの苦痛に歪んでいたが瞳からはまだ闘争心が溢れていた。そして────
自分の切断された左腕を地面に落ちるより先に右手で掴んだ。
「喰らいやがれッ!」
「!?」
雫はそのまま掴んだ左腕の切断面で包帯女の顔面と思われる場所を殴りつけた。
「ぐゥ……! 小癪な真似を……!」
切断部で殴られたためか血液が目に入ったようで、包帯女は目元をこすりながらふらついている。
「ソフィアさん、逃げるよ!」
「え、で、でも腕が……」
「いいから! 早く! あとこれ持ってて!」
「ヒッ……」
そう言って雫は再びソフィアの手を掴んだ。自分の左腕をソフィアに押し付けて。ソフィアはあからさまに不気味なものを見るような表情で受け取る。
「走るよ!」
そう言って走り出す雫。だが、またしても急な事だったためか手を引っ張られたソフィアはふらついてしまう。
「ソフィアさんしっかり走って! 今のオレみたくなりたくないでしょ!?」
「は、はい……」
ソフィアは顔を左右に振って意識をハッキリとさせた。すると何とか持ち直したようで、ある程度しっかりした足取りで走り始める。それを確認すると雫はソフィアから手を離し、ポケットからポイフォンを取り出した。
「同じ異世界同士なら繋がるだろ……! ケインたちの位置は……」
そう呟きながらポイフォンの画面を確認する。
「……よし、このまま真っ直ぐ行けば合流できる! このまま走りきるよ、ソフィアさん!」
「は、はいぃ……」
ソフィアは今自分が置かれている状況、そしていま自分が持っている雫の腕を見て、憔悴したような声を出した。
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