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 ◇

カービーたち三人は学校を抜け出し、昨日雫と別れた公園に来ていた。

「フムフム。とりあえず大将は公園からは真っ直ぐ家方面に向かってるっぽいね」

なにかスマホのような機械を持って、ケインが昨日座っていたベンチの付近を歩き回っている。

「うっし。じゃあ雫の手がかりも見つけられたことだし、後を辿ってみるとすっか」

「うん。無事に家まで行ってるといいんだけど……」

「それだと雫の野郎が引きこもりになっちまってるじゃねぇか」

「ふふふ……、そうだね」

カービーと勝平は二人で笑いあった。

「まあなんにせよ何かはあったんだろうな。……おうケイン、まだ出発できねぇのか?」

「ちょいとお待ちを……。……よし、これで大将の後を尾行できる!」

ケインがスマホのような機械をいじると、地図のようなものが画面に表示された。向かう先がわかる矢印も表示されている。

「よっしゃあ! 行くぜ二人とも! 大将の足取り追って、いざGO GO!」

ケインは颯爽と駆け出した。

「おい! ちょっと待てや! いきなり走り出すな!」

「なんかケイン君、犬みたいだね……」

カービーと勝平の二人がその後を慌ててついて行った。


「なんですかあの謎の機械……。やっぱり私が知らないことがたくさんありますね……!」

公園に生えてる樹木の陰で、またしても謎の人物がカービーたち三人の話を盗み聞きしていた。

 ◇

「なんだこりゃ……」

雫の痕跡を辿り歩いていた三人は住宅街の片隅であるものを発見した。

「これって……。血痕……、だよね」

それは血痕というよりも血だまりのような大きさであった。

「そうだな。そりゃ見たらわかる。問題は────」

「これが誰の血か、ってことだわね」

ケインが緊張してゴクッと喉を鳴らす。

「まさかこれ、雫君のじゃ……」

「まあ考えたくはないけど、その可能性は高いねぇ」

ケインがしゃがみこんで血痕に向けてスマホのような機械をかざす。

「今調べるからちょっと待っててねん」

「おう。急げよ。思ったよりやべー事になってるかもしれねぇからな」

「あいあいさー」

ケインが機械の操作を開始した。画面には『解析中  三%』と表示されている。

「……その『神機』、便利だよね」

「そうだな。早く雫の野郎に言って俺らの分も用意してもらわねぇとな」

「その雫君が無事だといいんだけど……。……そう言えばさ」

勝平が血痕を見つめながら口を開いた。

「これだけ大きな血の跡なのに大騒ぎになってないよね」

「そういやそうだな。日本人特有の見て見ぬふりってやつじゃねーのか?」

「流石にこれだけ大きな跡だとそれはないんじゃないかな。……もしくは誰かもう通報したでしょ、みたいな感じだったり?」

「たしかそれで全焼した家がアメリカかどっかにあったな」

勝平とカービーが雑談を開始する。するとケインが苦い顔で振り返った。

「お、お二人さん……。暇だからって後ろでくっちゃべられると気が散るんですが……」

「んだよ。どうせお前が操作することないんだろ?」

「そんなことないって! オレッちには電源を入れてスタートボタンを押すという大事な仕事があってだな!」

「それ、ほとんど操作してないじゃない」

勝平がクスクスと笑う。

その時、ケインの持っていた機械からピーピーという音が鳴った。

「おら。アホな事言ってないでとっとと調査結果言えや」

カービーがしゃがんでいたケインを足で小突く。

「ちょ、急かさないでって! えーっとねぇ……」

ケインが画面をのぞき込む。するとさっきまでと違い険しい表情になった。

「……とりあえずだけど、この血痕は大将のものだね」

「やっぱりか……」

「だ、大丈夫かな雫君……」

勝平が心配そうな顔でケインとカービーの顔を交互に見る。

「他にわかったことはねぇのか?」

「えっとね……。いいお知らせかはわからないけど、大将はここからさらに移動してるみたいっすよ?」

「よかったぁ~! 逃げられたんだね」

「よくはねぇけどな。で、アイツはどこに行ったんだ? 家の方か?」

「いや~、それがさぁ……」

ケインが機械を見ながら苦笑いをする。

「家とは違う方向で、しかも……」

そう言ってケインは近くに建っている民家を指差した。

「あのお宅の屋根の上に逃げたみたいなんだよね」

「おいおい……。猿かあのヤローは」

「それで、その後は?」

「なんか屋根伝いに逃げ回ってるっぽいんだよね」

「まさに猿だな。……で、どうすんだ? まさか俺ら三人が真昼間から人様の屋根に飛び乗って痕跡辿るなんてするわけねぇよな?」

カービーが屋根を指差しながらそう言った。

「まっさかぁ。この『ポイフォン』にかかれば道路からでも痕跡くらい辿れるって!」

ケインはそう言って自慢げに持っていた機械───『ポイフォン』を高々と掲げた。

「そりゃ結構。じゃあさっそく捜索を続けんぞ。急がねぇとヤバい」

「そうだね。ケイン君、道案内をお願い」

「あらほらさっさー! 野郎ども! ついてこーい!」

「僕らしかいないけどね……」

ケインを先頭に三人は駆け出した。


ケインたちが立ち去ってすぐ後。血痕のある場所に一人の少女が立っていた。

「あわわわ……。これって本物の血……、ですよね……。それもさっきの話を聞いた限りだと黒川君の……」

少女は身震いした。

「な、なんかこれ以上関わったらよくないような気が……。遊びじゃなかったんですか……? で、でも! ここまできたら真実を知らないまま引き下がるわけにはいきません!」

少女は気合を入れなおすようにガッツポーズをした。

「きっとあの四人は私の知らないワクワクを知ってるんです! ……危険な事ではないです……、よね……?」

大量の血だまりを見て一瞬は恐怖した少女であったが、非日常の体験がアドレナリンを出して興奮させているのか、怖気づくことはなかった。

「黒川君も心配ですけど……。とりあえず今はあの三人を追わなくては!」

そう呟くと少女は駆け出した。

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