7

その日の放課後。

雫、カービー、ケイン、勝平の四人は塔音学園近くの公園に集まっていた。雫、ケインの二人がベンチに座り、カービー、勝平の二人がその前に立っている。

「やばいって……。ソフィアさん、めちゃくちゃ食いついてきちゃってるよ……」

雫がげんなりしたように言った。

「まさかオレッチが寝てたあの短時間でそんなことになってたとは……」

「オメェは授業終わるまでずっと寝てたじゃねぇか」

カービーがケインの頭にチョップを打ち込む。

「でもマズいね。ホントにどうにかしないと」

勝平が考え込むように顎に手を当てる。

「とりあえずここにはソフィアさんいないよな?」

雫が辺りをキョロキョロと見渡す。公園には遊んでいる子供とその親しか見当たらなかった。

「大丈夫だろ。念入りに撒いてきたし」

こうしてこの公園で落ち着いて話ができるようになるまで、長かった。ソフィアがしつこかったのである。

授業終了と同時に雫を質問攻めにし、雫は何かと理由をつけて逃げ回っていた。なんとなく察したカービーたちがヘルプに入ろうとすると今度はそっちへソフィアが質問をしに行く。どうしようもなくなっていた。

帰りのホームルームが終わり放課後になると、さらにソフィアは勢いを増したように雫たちに突っ込んでいった。ソフィアをどうするかの話し合いもろくに出来ず、やむを得ずソフィアを撒いて学校外での話し合いをしようということになったのだ。

「ヴェジネはこっちに越してきたばかりだし不用意に学校外に出たりはしないだろ。そのまま寮に帰るんじゃねぇか?」

「ヴェジネさんって寮暮らしなの?」

「ああ、そうらしいぜ。あのおしゃべり、聞いてないのに言ってた」

カービーが呆れたように言う。

塔音学園には寮が併設されており、大半の生徒はそこからの通学をしている。カービー、勝平、ケインの三人も寮生活である。このなかで実家通いは雫だけである。

「いいよなー、寮暮らし。オレも一人暮らししてみたいわー」

「大将、簡単そうに言うけど大変だよー一人暮らしは。大将みたいに実家住みの方がいいって」

「ええ~、そうでもないだろぉ」

雫は足をバタバタさせている。

「『お目付け役』がいると大変だな」

「うるせー」

雫はからかってくるカービーの足を軽く蹴飛ばした。だがガタイの良いカービーはびくともしない。

「それよりも。ヴェジネさんの事でしょ。どうすんのさ明日から」

「どうって言われてもなぁ」

「今日一日でこれだったら明日からもっとヤベェぞ」

「ソフィアちゃんとお話できるのは嬉しいんだけどなー」

ケイン一人だけ見当違いの事を言っていた。

「そんなにヴェジネと話したかったらテメェに押し付けてやろうか?」

「い、いや……。オレっちだと誤魔化しきれなさそうだから、か、勘弁……」

ケインが両腕で大きくバツマークを作る。

「いや、だけどよぉ。中二病作戦が失敗するとはな。雫、オメェの誤魔化し方が下手だったんじゃねぇのか?」

「そんなことねえよ! 誰がやったってああなってたって!」

「ヴェジネさんがそんなことに興味持つとはね……」

勝平がため息をつく。

「どうすんのさ。このままじゃ堂々巡りになっちゃうYO!」

妙なテンションで発言しながらケインが持っていたジュースの缶を開ける。

「どうって言われてもなぁ。三人ともなにかいい案はないか?」

雫が三人に尋ねる。

「何も思いつかねぇ」

「誤魔化すのが無理だったんならもうどうしようも無い気が……」

「HEY YO! 何もないYO!」

「お前ら……。せめてもうちょい考えてから言えよ……」

雫が呆れている。

「ま。どうせしばらくは席が隣の雫が質問攻めに遭うだけだろ。頑張って誤魔化せや」

「おいカービー!? 何言って────」

「そうだね。その間に僕たちがなにか打開策を考えとくよ」

「勝平も!? 明日からどうするかの話し合いを今してるんだろ!」

「HEY YO! オレっちたちに任せてくれYO!」

「ケインは……! ……まあお前には期待してないからどうでもいいや」

「ひどッ!」

ケインがショックを受ける。

「じゃっ、そんなわけで今日は解散だな」

カービーが地面に置いていたカバンを背負いなおす。

「そうだね。……それじゃあ雫君、また明日~」

「ま、マジで何も進展しないまま終わるのか……」

「だからお前がヴェジネの相手をしてる間に俺らが考えとくって言ってんだろ」

「その相手するのが一番の問題なんだが……」

すでに寮の方向に歩き始めている勝平。雫に「じゃあな」と言ってカービーがその後について行く。

「ま、マジで明日からどうすんだ……」

その後ろ姿を雫は呆然と見送った。

「大将、大将」

雫の肩をケインがポンポンと叩いた。

「お。ケイン、お前は残ってオレとどうするか考えてくれるのか……! あの薄情どもと違って!」

感激している雫の前に立ったケインはニコッと笑い、

「がんばれ、がんばれ♡」

「……」

無性に腹が立った雫は、ケインに強烈なビンタをお見舞いした。

 ◇

「ハァ……。どうやってソフィアさんを誤魔化したものか……」

公園でケインたちと別れた雫は、一人家路についていた。雫の家は塔音学園から歩いて十分ほど、公園からもそんなに変わらない距離にあった。

雫は腕を組んで考え事をしながら歩いていた。

「アイツら、絶対に他人事だと思ってるよな……」

いっそ本当の事を話してしまおうか。そして自分たちにこれ以上関わらないように言ってしまおう。

そんなことを考えたが、雫はすぐにその考えを振り払った。好奇心旺盛なソフィアのことだ。『真実』を知ったら間違いなく首を突っ込んでくる。あの三人のように。

ならどうしたものか。相変わらずそれが浮かばない。

「う~ん……」

「どうした、考え事か?」

「ああ、ちょっとな。……って、え?」

雫は驚いて声が聞こえた方を向いた。すると


雫は背後からバッサリと刃物のようなもので斬りつけられた。

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