5

学食にて

ソフィアは一人、うどんをすすりながら先ほどの事について考えていた。

(さっきの話は何だったんでしょうか……。明らかに普通ではない内容でしたし)

学食の喧騒も全く耳に入らないほど、ソフィアは考え込んでいた。

(もしかして今話題の『チュウニビョウ』とかいうやつでしょうか……。なんかよくわからない話をするらしいですし)

なんにせよソフィアはワクワクが収まらなかった。

(いっその事、黒川君とかに聞いてみましょうか。……きっと自分が知らない、ワクワクするような答えが返ってくるはず!)

ソフィアはそう意気込んだ。

ただ

(須藤さんのあの顔……)

ソフィアは先ほどの勝平の顔を思い返した。明らかにこちらを怪しんでいるような表情であった。まるで、聞かれてはいけない話を聞かれたときのような。

(……まあ、『チュウニビョウ』とか言うのは他人に聞かれると恥ずかしいらしいですし、きっとそういう理由ですよね)

無駄にそういう情報は知っているソフィアであった。

 ◇

時間は少し戻って、場所は屋上扉前。

ソフィアを見送った勝平はため息をつきながら雫たちと合流した。

「やあ、三人とも」

「ん? おう勝平じゃねぇか。来んのがおせーよ」

「トイレ行くって言ったじゃない……。でも来るのが遅くてよかったと思うよ」

「へぇ? なんで?」

ケインがマヌケな表情で訊き返す。

「うん、まあ……。僕が来るまでに、なんか三人で話してた?」

勝平はケインからの質問の答えを濁し、逆に質問する。

「ああ。昨日の事をちょっとね。だからわざわざ教室からここまで移動してきたんだろ?」

雫が答える。

「ああそうなんだ……」

勝平が再びため息をつく。

「んだよ。相変わらずハッキリしねぇ奴だな。それがどうしたって?」

「いやね。多分、ヴェジネさんに話聞かれてたと思うよ」

そう言われた雫、ケイン、カービーの三人の顔が強張る。一瞬でその場に緊張が走った。

「マジで……。オレっち、全然気付かなかったよ……」

「まあ別に……。聞かれるくらいならただの妄想全開の中二病野郎としか思われないだろ……」

雫が頭をポリポリと掻きながらそう言う。

「ええー! やだやだ! ソフィアちゃんにそんなふうに思われるのは! ラブフラグ折れちゃうじゃん!」

ケインがヤダヤダと子供のように駄々をこねる。

「いやもともと無ェだろうがよ。……まあ話聞かれただけなら雫の言ったとおり、ただの痛てェ奴って思われておしまいだろ」

「いやー、それがさぁ……」

勝平が困ったような表情で続ける。

「ヴェジネさん、凄い目を輝かせながら話聞いてたんだよねー」

「えぇ……」

雫がなんともいえない表情になる。

「ソフィアちゃん、『あの馬鹿どもの恥ずかしい現場を押さえたぜ! さあどうしてやろうかな!』って考えてたりして……」

ケインが心配そうに言う。

「いや、ヴェジネはそんなタイプじゃねぇだろ。……まあ会ったばかりだからなんとも言えんが」

「でもそっちの方がはるかにマシだな。『この件』に首を突っ込まれるのは勘弁だ」

雫は首を横に振った。

「俺らみてぇにか?」

カービーが雫の方を見てニヤリと笑う。

「そうだよ、この馬鹿どもが。オレに関わらなければ今頃────」

「おっと。言わない約束でしょ、大将」

「そうだよ、雫君」

雫の言葉を遮ってケインと勝平がそう言いながら微笑んだ。それを見て雫はため息をついた。

「まったく……。まあいいや。ソフィアさんの件は向こうからなにかアクションしてくるまでは保留でいいだろ。こっちから掘り返すこともないし」

「そうだね。少なくとも僕が見た感じではソフィアさんは好奇心もあるけど、見ちゃいけないものを見た、って感じだったから。もう関わってこないんじゃないかな」

「マジかー……。ソフィアちゃんルート潰れちゃったかー……」

ケインがガックリと肩を落としている。

「いや、だからもともと無ェって。それにしても……」

カービーは腕を組んでウーム、と唸った。

「なんでヴェジネの奴、俺らの話を盗み聞きしてたんだ? 教室から俺らの後を付けてきてたってことだろ?」

「う~ん、確かに……」

ソフィアがなぜ自分たちの後を付けてきたのか。

本当にただ学食の場所を聞こうとしていただけだとは知らない四人は、揃って首を傾げていた。

 ◇

「なるほど、あれがソフィア君か……。あまり変わってないなあ」

校舎の外に設置されている自動販売機の前に立ちながら一人の女子生徒がそう呟いた。先ほど勝平とソフィアのやり取りを見ていた人物と同じであった。

「相変わらず好奇心が強そうだね。あの四人も大変そうだ」

そう言うと買ったばかりのジュースの缶のプルタブを引き上げる。プシュッという炭酸飲料とわかる音が鳴った。

「私はしばらく様子を見るか……。雫君から何か言われたら素知らぬふりで関わればいいだろう」

女子生徒は先ほどと同じ不敵な笑みを浮かべながら缶に口を付けた。

「……うぐっ! ゲホッゲホッ!」

そして妙な口の形で飲み物を飲んだせいで、むせた。

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