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時間は過ぎて昼休み。

ソフィアはトイレから出て、自分の教室に戻ろうと廊下を歩いていた。

(お昼ご飯はどうしましょうか……)

そんな事を考えていた。クラスメイトの女子から昼ご飯に誘われているが、どうしたものかと考えている。転校前に聞いた話では塔音学園は購買部も食堂もあるが、弁当を持参してくる生徒も多くいるらしい。だがソフィアは転校初日なのもあり、弁当を持参してはおらず、学食か購買部に行くしかなかった。

(よくドラマとかで聞く話だと高校の購買部はセンソウが起きてるって聞きますね……。学食に行くのが賢明でしょうか)

そう考えているうちにふと思う。自分は学食の場所を知らないではないか。そもそもこの学園の設備についてもまだよくわからない。

(困りましたね……。誰かに聞きましょうか)

その時雫の言葉を思い出した。

『わからないことがあったら聞いてくれよ』

社交辞令かもしれないが雫はそんなことを言っていた。

(うーん……。とりあえず黒川君に聞いてみましょうか)

ソフィアはどうするか一人悩む。

(でも黒川君は……。うーん……。……ん? あれは)

そのとき、近くの階段を上っていく雫とカービー、ケインを見つけた。

(どこに行くんでしょうか。上の教室? 屋上? ……ハッ! まさか話題のオクジョウメシとか言うやつでは!?)

ソフィアは目をキラキラとさせていた。真偽を確認するためにソフィアはコッソリと後をつけることにした。ついでに学食の場所も聞けばいい。そう考えながらソフィアはバレないように三人の尾行を始めた。

 ◇

「────それで? どうなんだよ俺の『グレモール』はよ」

「まだ修理中だって。昨日の今日で治るわけないだろ」

(グレモール? な、なんの話でしょうか……?)

雫たち三人は屋上へと繋がっている扉の前の踊り場に円を作るように立っていた。ソフィアは階段の折り返しの所に隠れるような形でしゃがみこんでいるため、雫たちの姿は見えないが話声はよく聞こえる。

もともと盗み聞きするつもりはなかったが、なにやら聞きなれないワードが聞こえたため、つい隠れてしまった。

「オレッちの『シャム』は全然壊れてないけどね~。カービーの使い方が荒いんじゃないのん?」

するとハンッと鼻で笑う声が聞こえた。

「俺はテメーと違って前でヤりあってるからな。武器の消耗が激しいんだよ。テメーも前に出てアイツらの攻撃受けてみろよ」

「いやいや、オレッちは後方支援だから……。オレっちが前に出たら誰が援護すんのよ」

「そんなのいらねえだろ。全員で前出て、全員でブン殴っちまえば早く終わりそうじゃねぇか」

「あいっかわらず、脳筋思考だねぇ……」

ケインのため息が聞こえた。

「だがケインの言う事ももっともだよ。カービー、お前は『神機』の使い方が荒すぎる。毎度毎度修理するほうの身にもなってくれよ」

この声は雫だろうか。

(シャム……? 猫の種類でしょうか? それにシンキって……)

なにやら聞きなれない単語に戸惑うソフィア。「前でヤりあう」や「攻撃を受ける」など物騒な単語も聞こえてきた。

「フン……。だったらもっと頑丈に作ってくれや。俺の戦い方はよく知ってんだろ? それにコイツのシャムと違ってオレの『グレモール』はいくらでも作れんだろ?」

「バカ言うなよ。構造が単純だからって無尽蔵に作れるわけじゃないんだ。素材だっていちいち『異世界』から取ってこなくちゃいけないんだぞ」

(い、異世界!? なんの話なんですか……!?)

ソフィアはその単語に強く反応した。今までの話はさっぱりであったがその単語の意味はなんとなくわかる。

こことは違う世界。異世界。マンガの中やアニメの中でしか聞いたことのないような単語を今、ハッキリと耳にした。

ソフィアは興奮で心臓がバクバクしているのがわかった。もう少し詳しく聞きたい。そう思いながらソフィアは意識を上の階で話している三人に集中させた。

だがそれがいけなかった。

「ヴェ、ヴェジネさん? ……なにしてるの?」

「えっ!!?」

いきなり後ろから話しかけられ、驚いてソフィアは振り向く。

そこにいたのは勝平であった。

「あっ……。す、須藤さん……、ど、どうも……」

「どうも……。どうしたのこんなところで?」

勝平の顔は明らかに怪しんでいる。

「ああー、いやー、そのー……」

なんとなく。なんとなくだが話をはぐらかしたほうがいいとソフィアの中の何かが警告していた。

「学食! 学食を探してまして! それで道に迷ってしまって……」

「学食を探してたの?」

とたんに勝平の顔が優しそうな表情に戻る。

「学食だったら別棟だよー。一階と三階からしか行けない造りになってるんだけどね。……よかったら案内しようか?」

「あっ、大丈夫です! 場所さえ教えていただければ、もう……。そ、それじゃあまた後で~……」

ソフィアはヒラヒラと手を振りながらその場を後にしようとする。

「ヴェジネさん」

その場を立ち去ろうとしたソフィアは後ろから勝平に名前を呼ばれてビクッとしてしまう。

「な、なんでしょう……?」

「……学食に行くなら早く行った方がいいよ。空いてる席無くなっちゃうから」

勝平はニコッと笑い、ソフィアにそう言った。

「わ、わかりました~。行ってきますね……」

ソフィアは今度こそその場を後にする。速足で階段を下っていった。

「……」

その後ろ姿を微妙な表情で勝平が見つめていた。


そしてその二人のやり取りを離れた場所から一人の女子生徒が不敵な笑みを浮かべながら見ていた。

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