3
「はー、なるほど。本人不在なのにオレの机の周りに集まってるのは転校生ちゃんが来たからなのね」
「理解が早くてどうも」
席に着いた雫にカービーが状況を説明した。走ってきたのか、席に着いた雫は息を切らしていた。
「君が転校生? 今日から隣の席だけどよろしく。オレは黒川雫(くろかわ しずく)。ソフィアさんだっけ。まあ、わからないことがあったら聞いてくれよ」
黒川雫と名乗った少年はケインよりさらに背が高く、百八十センチはあるようだった。細身な外見をしており、黒髪を短く揃えたハンサムな顔つきをしている。
息を整えながら雫は勢いにまかせてそう自己紹介した。挨拶が終わった後に雫は「つかれたー」と言って机に突っ伏した。
「「「いやいやいやいや!!」」」
ケイン、カービー、勝平の三人が声をそろえてツッコミを入れた。
「は。なに? オメェら知り合いじゃねえのかよ」
「そうそう! なんか雫君、さも初めて会ったような反応だし」
「え? なになに? 何が?」
カービーと勝平の言葉を受けて、顔を上げた雫は訳が分からないといったようにキョトンとする。
「さっきのソフィアちゃんの反応を見たら……。ねえ?」
ケインが確認するようにソフィアの方をチラリと見る。
「ナ、ナニ言ッテルンデスカー。初メテ会イマスヨー」
ソフィアはワザとらしいくらいカタコトで返した。表情もどこか強張っている。
「なんで急にカタコトになってんだよ……」
カービーが呆れたように言った。
「ええっと……」
雫が不安そうな、どこか申し訳なさそうな顔つきでソフィアを見る。
「ま、前にどこかで会ったっけ? オレ、割と人の顔覚えるの苦手だから、忘れちゃってたらホントに申し訳ない……」
「い、いいえ!! 初めて会いますよ! 本当に!」
申し訳なさそうに言った雫を見て、ソフィアが慌ててフォローするようにそう言った。
「その、えっと……。隣の人がどんな人かなー、優しい人だといいなー、って心配してただけなんで……。そ、それだけです!」
そう言ってはいるもののソフィアの目線は泳いでいた。さっきまではなかった身振り手振りも加わっている。
「なーんか嘘くせぇんだよな」
カービーがジロリとソフィアを睨むように見つめる。鋭い視線にあてられたソフィアは体を小さくするように「え、ええっと……」と委縮してしまう。
「ほらほらカービー君。ヴェジネさんが怖がっちゃってるよ」
「へいへい、カービー! ソフィアちゃんを泣かせるのはオレっちが許さないぜ!」
ケインがどこかのヒーローのような決めポーズを取りながらそう言った。
「チッ。うるせーな。少し気になっただけだろーが」
二人に注意され、カービーが不貞腐れたように床を軽く蹴り飛ばす。
「な、なんかすいません……。私がはっきりしないせいで……」
「ソフィアちゃんは悪くないって! まあほら、秘密の一つや二つ持ってた方が女の子は魅力的だからさ!」
「そうそう。隠し事くらい誰だってあるよ」
ケインと勝平がフォローを入れる。
「は、はい! ありがとうございます。……って結局なんか隠してるって思われたままなんですね……」
ソフィアがガックリと肩を落とす。
「うーん……。記憶にないなぁ。初めましてだと思うんだけどなぁ」
その横で雫が腕を組んで記憶を掘り起こそうとしていた。
◇
数分してその場が落ち着いたころ。
「ま、これで全員揃ったわけだな」
カービーが腕を組みながらそう言った。
「オレっちたち、いつも一緒の、仲良しチーム、だYO!!」
何故かケインが下手くそなラッパーのようにリズムに乗せてそう言った。
「そんなわけで。これからよろしくね、ヴェジネさん」
勝平が改めてソフィアにそう言葉をかける。
「あっはい。よろしくお願いします!」
そう言ったソフィア。だが小声で
「……まさかこんなに早く黒川君に会うことになるなんて……。話が違うじゃないですか……」
そうポツリと呟いた。その言葉は小さすぎて雫やまわりにいる三人には聞こえていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます