2
「ソフィアちゃんって可愛いねー」
ホームルームが明けたタイミングで、ケインは誰よりも早く転校生のソフィアの机に向かい、本人にそう言った。
「いきなり口説いてんじゃねーよアホ」
「痛った!」
遅れてやって来たカービーがケインの後頭部にチョップを入れる。
「この人の言葉は無視して大丈夫だからねー」
さらに勝平が来てカービーの横に並んだ。
「あーえっと、日本語わかるかな? 聞き取れるかな?」
勝平が心配するようにソフィアに訊ねる。
「自己紹介の時はカタコトだったな。まだ練習中か?」
「アッ、エエト」
カービーにそう言うと尋ねられたソフィアは困ったように目をキョロキョロさせた。
「まあ、日本語は難しいからな。俺らが難しい言葉使わねえようにすれば────」
「えっと……。私、日本語しゃべれます~」
カービーの言葉を遮って流暢な発音でソフィアが答えた。
「「「普通に喋れるんかいッ!」」」
その場にいたソフィア以外の3人が同時にツッコんだ。
「すいません~。普通に喋れるんですよ。あっ、別に聞き取りも普通に出来るのでゆっくり話してもらわなくて大丈夫です」
「すっごい流暢な喋り方だあ……」
すらすらと話すソフィアにケインがあっけにとられる。
「な、なんで自己紹介のときはあんなにカタコトに話してたの?」
勝平も驚きながらソフィアに訊ねる。
「いや~、私外国人なんであれぐらいたどたどしくした方が最初の印象が良いかな~、皆さん優しくしてくれるかな~、と思いまして」
「な、なかなかいい性格してるじゃねえか……」
カービーが呆れたように言った。
「で、でもほら! 実際、すぐにこうして話しかけにきてくれたじゃないですか!」
呆れられたことを察したのか、ソフィアが慌てて付け足す。
「なんのフォローなんだろう……」
勝平も少し呆れ気味に呟いた。
「まあオレっちたちが話しかけたのはソフィアちゃんを心配したのもあるけど、もう一つ理由があるんだよ!」
「は、はぁ」
ケインが微妙になった空気を換えようと大きめの声で話し出す。
「何を隠そう、オレっちはこのクラスの学級委員だからね! 転校生が来たなんて大きなイベントがあったら、いの一番に関わらないと!」
親指で自分を指しながら、ケインが笑う。
「俺はケインが暴走しないように止めに来た」
「僕も同じかな」
カービーの発言に勝平がうんうんと頷く。
「なんでそんな扱い!? ちゃんと話しかけたじゃんじゃん!」
「第一声で口説いてたじゃねーか。何がちゃんとだ」
カービーが再びケインの頭にチョップを喰らわせる。
痛い! と喚いているケインを無視して勝平がソフィアに話しかける。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は須藤勝平(すどう かっぺい)っていいます。よろしくね」
そう名乗った少年は金髪で背が低く、華奢な体つきをしていた。顔も女性に間違えそうなぐらい幼く、優しい目つきをしていた。
「そういやまだ名乗ってなかったな。俺は荒舘彫耶(あらだち ちょうや)ってんだ。よくこいつらからはカービーって呼ばれてる。アンタも好きなように呼んでくれ」
カービーと名乗った少年は勝平とは逆に筋肉質な体系をしていた。金髪にした髪を短く揃えている。よく見なくても目つきが悪い。
「カー……ビー……?」
ソフィアが不思議そうにキョトンとする。
「ああ。変なあだ名だろ? まあ気にしないでくれや。色々とあってな。おもにコイツのせいで」
そう言ってカービーはケインを小突いた。
「ちょ、2人とも!話しかけたのはオレっちが最初なのに!」
勝平、カービーが自己紹介をしているのを見てケインが慌てたように続く。
「俺っちの名前は長合ケイン(なごう けいん)! 外国人だからソフィアちゃんの仲間だよ!」
元気よくそう名乗った少年は三人の中で一番背が高かった。茶髪の髪を少しだけ長めにしていて、緑色の瞳をしていた。その表情はいつでも明るい感じであった。
「あっ、そうなんですか?」
ソフィアが驚いたように言った。
「ちげーだろ。テメーはハーフじゃねーか」
「まあ似たようなもんだからセーフセーフ!」
カービーのツコッミをケインが軽く流す。
「あはは……。3人は仲がいいんですね」
ソフィアが苦笑しながらそう言った。
「いや、本当はもう一人よく一緒にいる友達がいるんだけどね。今日はちょっと遅刻しててね」
勝平がソフィアの横の空席をみながらそう言った。
「まったく、大将はこんなときに遅刻するなんて。せっかくこんな美人が隣の席になったっていうのに」
やれやれと大振りなジェスチャーしながらケインが呆れたように言った。
「そんな、美人だなんて……」
ソフィアが照れたように顔を赤くする。
「いや、確かにあんたは美人だぜ? そこら辺の奴らより遥かにな」
「いやいや、そんなこと……。そ、そういえばもう一人の人は遅刻なんですよね?」
ケインとカービーの続けざまの称賛に照れたのか、ソフィアは話題を変えようとした。
「ん? ああ、あんたの横の席のやつで名前は黒川雫(くろかわ しずく)っていうんだ」
「黒川……、雫……」
ソフィアは少し複雑そうな、また何かを考えるような顔つきになった。
「ああ、名前は女子っぽいんだけどね。男子だよ。」
「そうですか……」
勝平が補足した言葉を聞いてもどこか上の空なソフィア。それを見てカービーがふとソフィアに尋ねた。
「どうした? なんか妙な反応じゃねぇか」
「い、いえ! 別にそんなことは……」
ソフィアが何か慌てたように否定する。
「そう言えばさっきのヴェジネさんの紹介のときにも雫君の名前聞いてなんか反応してなかった?」
勝平もさっきのホームルームのソフィアの謎の反応を思い出して訊ねた。
「え、えっと……。その……」
ソフィアが目をキョロキョロさせながら慌てている。何かを誤魔化そうとしているようであった。
「え、なになに? もしかしてソフィアちゃんって大将とお知り合い的な?」
ケインがソフィアにそう聞いたそのとき────
「ちーこくしまーしたー!!」
勢いよく教室のドアが開いたとおもうと、一人の学生────
黒川雫が教室に飛び込んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます