出会い〈ソフィア〉

「今から転校生を紹介するぞー」

ある日の朝、ホームルームの時間、塔音学園2年1組の教室で担任がそう告げる。

―――やっぱり噂は本当だったんだー

―――男子かな? 女子かな?

―――噂では女子らしいって

教室内がざわつき始める。

「おいおいこの時期に転校生かよ、もう夏だぜ?」

後ろの席にいる金髪の少年の方を振り向きながら、前の席の金髪の少年が話しかける。

「まあ、普通は四月とか新学期の時期だよねえ。もう六月だし、夏休み直前に転校生って珍しいよね」

金髪の少年が不思議そうに答える。

「なんなんだろうな。もとの学校で何かやらかしちまって、強制転校とかか?」

「カービー君じゃないし、そんなことないでしょ」

「おい勝平。テメー、人を退学させられたみたいに言うんじゃねえ。俺たちは中学から一緒じゃねーか」

カービーと呼ばれた少年が、少しからかっているような目つきの金髪の少年────勝平を睨む。

「そうだっけ? いつ退学になってもおかしくないくらいには喧嘩とかしてたじゃない」

やはり、少しおどけたように勝平が言う。

「へっ。いろいろやらかしてる数ならこっちを寂しそうにみてるケインの方が多いだろ」

そういうとカービーは教室の隅の席からこちらを寂しそうに見ている茶髪の少年をチラリと見た。 勝平、カービーの席と茶髪の少年の席は教室の端で対角線に位置していた。

「ケイン君もそうだけど、雫君もなかなかじゃない? いろいろと問題起こしている量的には」

勝平はそう言ってとある方向────教室で唯一空席になっている席に目を向けた。

「あれ? 雫君まだ来てないみたいだね」

「どおーりで静かだと思ったぜ」

カービーと勝平はそうは言うが、いつもはホームルーム開始前までは茶髪の少年────ケインと一緒にこちらの席まで来て無駄話をしている『彼』が来てないのにとうに気づいていた。

「珍しいね、雫君が遅刻するなんて。朝が弱いとは言ってもいつもちゃんと来るのに」

またしても勝平が不思議そうな顔をすると、カービーが答えた。

「あーー、『昨日の一件』のせいだな。だいぶ遅くまでかかってたみてぇだし」

「……昨日『精霊』の襲撃でもあったの?」

勝平がいきなり真剣な顔つきになった。

「あーいや、そうか、昨日勝平は直帰しちまったから知らねえのか」

カービーが頭をポリポリと掻きながら答える。

「まあちっちぇのな。夕方にちょいとよ。実は――――」

「ほーい、それじゃあ転校生を紹介するぞー。皆静かにしろよー」

カービーの話や教室のざわつきを遮り、担任が教室中に聞こえるように大声を出す。

「わりィな勝平。また後でだ。まあ、ホントに大ごとになるようなレベルじゃねえんだ」

そう言うとカービーは正面を向くために体の向きを直す。

「雫君の事、心配だからあとで必ず教えてね」

勝平も気に留めているいるようだが、注意を教室の前方に向けた。

「皆サン初メマシテ。今日、聖ヴェルディーユ学園から転校シテキマシタ、ソフィア・ヴェジネ、トイイマス」

そう言うと教壇の前に立った少女は深々と頭を下げた。

「マダ、コノ学校ノ事、ヨクワカリマセンガ、皆サン、ヨロシクオネガイシマス」

片言の日本語でそう挨拶するとソフィアと名乗った少女はニコッと笑った。

ブロンドの髪をロングヘアーで伸ばし、瞳は透き通るようなブルー色をしている。とてつもない美少女であった。

「あーー、彼女は見てわかる通り外国人だ。日本にはなれないところもあると思うが、みんな、面倒見てやってくれ」

担任がそれだけを言うと教室の一つの机を指さした。

「ヴェジネ、あの空席を使ってくれ。さっき運び入れた」

「エット……、ドッチデスカ?」

担任が指さしたところに、空席は二つ並んでいる。

「なんだ、黒川のやつ遅刻か……。左の窓側の机を使ってくれ。右側は黒川って生徒のやつだ。まだ来てないがな」

「……クロカワ……? もしかして……」

「ん? 何か言ったかヴェジネ?」

呟いた言葉が聞き取れなかった担任がヴェジネに訊ねる。

「イ、イエ。ナンデモナイデス」

そう言うとソフィアは指定された自分の席に向かった。

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