第3話


「あ、雨」


6月の梅雨の時期。


夢桜は帰ろうとしていたが、雨に気づき、カバンに入れていた折りたたみ傘を取り出した。


傘をさして歩こうとすると、後ろから声をかけられた。


「夢桜」


振り返ると、入学式の時に目が合った彼、赤城海翔(あかぎかいと)がいた。


同じトロンボーン担当ということもあり、教えてもらうことや、話すこともあった。


お互いに明るい方ではないため、喋るのは楽器のことぐらいしかない。

だが、夢桜はそれでも嬉しかった。


「赤城先輩、どうかしたんですか?」


「ごめん、傘忘れちゃって……同じ駅だよね?入れてもらってもいい?」


「いいですよ!私でよければ」


「ありがとう」


(先輩と相合傘……)


夢桜が海翔への好意に気づいたのは、つい最近だ。


クラスには全く馴染めていなかったが、海翔がいるだけで、それだけで学校に来るのが楽しみだった。


(本当は同じ駅じゃないんだけどね……)


そう、好意に気づいた時から、海翔と同じ駅から乗るようにしていた。

その度に、横目でチラッと見ては幸せな気分に浸っていた。


傘の外は雨が降っていて、この世界に2人だけしかいないような気がした。


でもそれは一瞬で、すぐに駅に着いてしまった。


特に話すことはないが、電車の中でも隣同士で座った。


(家まで送ってった方がいいのかな……)


同じ駅で降りると、海翔の方が先に口を開いた。


「傘、ありがとう。ここから俺の家近いから、もういいよ。……また明日。」


そう言って手を振る海翔に向かって、夢桜も緊張で強ばっている顔を精一杯笑顔にして、手を振った。


(こんな日が毎日続けばいいのにな……)

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