まだ忘れてない言葉

 お兄ちゃんに嫌われていた。わかっていたことだ。あの冷え切った6年間で妹を好きになれる人などいない。

 でも、だから次は好きになってもらいたくて。言葉を伝えて。

 

 お兄ちゃんは顔を真っ赤にして、眉間にシワを寄せ、怒っていた。


 自分勝手な私に怒っているのだろう。前は嫌いでした。今は好きです。そんなの信用するほうがありえないって小学生の私にもわかる。


 でも不思議と、怒りは私に向いてない気がした。いや、明らかに私じゃない誰かに怒ってる。

 

 つかつかとお兄ちゃんが近寄ってくる。右手を振り上げる。ぶたれるのだろうか。それもいい。罰して許してくれるならそのほうが100倍マシだ。


 でもその右手は私の涙を拭いていた。


「早速泣かしちゃったな。お兄ちゃん失格だ」

 笑っていた。

「……怒って……ないの?」

「? 怒ってないよ?」

「でも会っていきなり「好きです」には対応できないよ……

だって恵憂は妹なんだから。

嫌いじゃないよ。だから泣かないで」

 お兄ちゃんの優しい微笑み。


「恵憂。本当にキレイになったね」


 お兄ちゃんは忘れていなかった。あのときの気持ちを。あのときの言葉を。

 

 胸がときめいた。このままじゃ私の心は壊れてしまう。


 だからそのままちょっと背伸びして兄ちゃんにキスをした。


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