車の仲

「憂希くん。そんなに緊張しないで大丈夫だから」

 そう言ってくれるのは新しい母であり、かつてお義母さんだった人だ。

 父さんが亡くなってから色んな人が俺に声をかけてきた。あっちへいけ。こっちへ行ってほしい。葬式のとき。9歳になった恵憂を見て心が揺さぶられた。どうしてもっと優しくできなかったのか。どうしてそんな悲しそうな瞳にさせてしまったのか。 

 正直、父さんが亡くなったという事実より、恵憂の深い悲しみを垣間見たことがなにより辛かった。

 だからお義母さんの

「恵憂にはあなたが必要なの。自分では気がつけない。でも恵憂はもうあなたから離れられないわ」

という言葉を聞いたとき、迷わず恵憂の兄妹になれた。まぁ戸籍上は、お義母さんの考えもあって兄妹ではないのだが。それを知ってるのは俺とお義母さんだけでいい。

「今度は仲良くなれますかね?」

 ぴしっとデコピンが飛んできた。

「家族に敬語は使わないわよ」

 その優しい顔は恵憂そっくりで。あぁ恵憂のあ母さんなんだなと今更ながらに思った。

「恵憂はどうかしらね? 女の子の精神年齢は意外と高いのよ」

「でも今日から兄妹だから。本当の兄妹」

 だからもう恵憂を悲しませない、と密かに心のなかで誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る